『まんがの作り方』の平尾アウリ先生の新作。
タイトル『推しが武道館いってくれたら死ぬ』が示す通り、地下アイドル…その中でも人気が最下位の舞菜を人生かけて応援する女性えりぴよさんのお話を描いた作品。アイドルものであり百合作品としても楽しめます。
岡山県で活動するマイナー地下アイドル【ChamJam】の、内気で人見知りな人気最下位メンバー【舞菜(まいな)】に人生すべてを捧げて応援する熱狂的 ファンがいる。収入は推しに貢ぐので、自分は高校時代の赤ジャージ。愛しすぎてライブ中に鼻血ブーする…伝説の女【えりぴよ】さん! 舞菜が武道館のス テージに立つ日まで…えりぴよの全身全霊傾けたドルヲタ活動は続くっ! 『まんがの作り方』の平尾アウリ、待望の最新作!!
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主人公が男オタだったら、界王様の「見ちゃおれん」状態になったでしょうが、えりぴよさんが女性で残念美人なのでコミカルで微笑ましくなります。楽しいものを全力で楽しむ。これ最高の人生なり。それでいながらけっこう深い人間関係(百合的に)があったり。二粒も三粒も美味しい。
えりぴよさん凄すぎる
えりぴよさん
何よりもえりぴよさんの生き様ですよ。
地下アイドルグループ「ChamJam」の中でも人気最下位の舞菜の魅力に一番最初に気付き、唯一無二の舞菜推しとなったえりぴよさんは人生を掛けて応援するのです。収入の全てを突っ込み、服すら売ってしまい高校時代の赤ジャージしか持ってないという。うわっ…えりぴよさんの応援、全力すぎ…!?
えりぴよさんだけでなくアイドルヲタの生き様が凄すぎる。
感動的ですらあります。ここまで全力なのかと言うとそういうものなのです。
私自身はアイドルにハマったことは無いんですけど、以前に友達の付き合いである声優アイドルのライブに行ったんですよ。ライブ中に、声優が東京ドーム進出を発表したんです。そしたら回りの人たちの反応が凄かった。泣いてる人、抱き合う人、バンザイする人…喜びを爆発させてました。熱気ムンムンで人生かけてんなって感動してしまいました。
ドルヲタでなくても共感してしまうこと多数。
心の琴線に触れること無数。
えりぴよさんはオタクの鏡です
えりぴよさんの舞菜へ向ける情熱はコメディで笑えるんだが、オタクだからこそズシリと響くことが多いです。「私の人生には舞菜の1分1秒が必要なんです!」(1話)、「舞菜は生きててくれることがわたしへのファンサだから」「生きてさえいればいい」(9話)は座右の銘にしたいレベル。リアルアイドルだけでなく、二次元美少女だろうが、何なら人を好きになったことがあるならば、「大好き」を経験した全ての人間が共感できる。
「可愛いは正義」なんです。
人生の栄養補給と言っていい。可愛いを摂取するからこそクソゲーな現実を生きられるのである。えりぴよさんにとってのそれが舞菜なのです。そりゃ人生かけて推すっちゅーの。がしかし!当の舞菜は塩対応。
百合ラブコメとして楽しめる
えりぴよさんがのありったけの想いをぶつけられる舞菜の素っ気なさ。つれねー!
とはいえ、読者には舞菜自身がえりぴよさんの事を気になってる、むしろ好きだというのが分かるようになってるおります。いわばすれ違い百合ラブコメとしてニヤリングできます。
実は両想いだった
両想いの者同士が「勘違い」「すれ違い」などで関係がこじれるのはよくあることですが、えりぴよさんと舞菜はいい意味でひどい!そもそもえりぴよさんの言動が必ずどこかに落ち所があるのも原因なんですけど、2人の想いが正確にまじわることがほとんどない。
見ていてじれったい百合ラブコメでもあります。
何度、「そーじゃねぇだろ!」とえりぴよさんや舞菜の行動に突っ込みを入れたくなったことか。やってることは思春期中学生のような純情恋愛です。それが実に良い。見ていて微笑ましくなる。舞菜は普通に可愛いし、えりぴよさんは面白可愛い。
えりぴよさんと舞菜だけでなく、アイドルグループ「ChamJam」のメンバー同士でも百合的な関係があり百合好きにはたまりません。えりぴよさん&舞菜は見てて微笑ましい子供っぽい関係ならば、メンバー内の百合関係は大人っぽいシックなのも特徴的。
特に人気ナンバー1のれおとナンバー2の空音の関係がとても良い。
2巻からはえりぴよさんと舞菜のメイン2人以外も掘り下げて描かれるのですけど、れおと空音の百合的な関係…というかれおに対する空音の想いが格別なり。
空音とれお
2巻11話と12話の空音とれおの絡みは最高で最高すぎた。
過去を丁寧に掘り下げて、それ故に尊敬(百合的ラブ)を向ける動機付けも素晴らしければ、「私だけが分かってる」っていうラブコメ高ポイントである「そういう所が好き」をきっちり描いて惹かる過程がとても繊細でめちゃくちゃ満足度高く萌えられる。
この作者、前作『まんがの作り方』もそうだけどイチャラブ百合というよりは雰囲気を楽しむスタイルなんですよ。とはいえ前作は、霞を…空気を食うようなものでした。塩だけで飯食ってるようなものだった。満腹になれなかったのだが、今作は雰囲気も健在で、尚且つ、おかずがズッシリとボリューミーで幕の内弁当を食べてような感覚です。美味い!満腹満足!
「好き」を伝える
ヘテロだろうが百合だろうがラブコメは「好き」を伝えるのが手に汗握るところなのだが、悲しいけどこれアイドルとファンなのよねん。2巻では、ある意味変則的なすれ違いラブコメの模様だったえりぴよさんと舞菜の想いが通じた(一応だが)のは感動的ですらあった。
えりぴよさんに「漢」を見た
握手する5秒の間に、ありったけの舞菜ラブを伝えたえりぴよさんは漢だった(女です)。
「愛」を全部伝えることはできないけど、それでもいかに好きかと、感謝してるかと、5秒で気持ちを伝えたえりぴよさんである。舞菜にも想いは伝わっていた。まあ落ちどころはあったけど。それでも確かに距離が縮まってる2人である。
えりぴよさんと舞菜の絶妙な距離感がコミカルでツボなんですけど、例え両想いな2人が至近距離になろうと最後に「アイドル」と「ファン」という防弾ガラスが君臨してるわけで…。
ただの百合ラブコメならすれ違いが解決して両想いでくっ付いて「めでたしめでたし」なのだが、えりぴよさんは舞菜がタイトル通り心の底から武道館に行って(一流のアイドルになって)欲しいと願ってる。だから、単純に結ばれれば「めでたしめでたし」にはならない。結末が予測できないのが面白いところですが。本気で考えると、「愛」のあり方が見えてくる傑作なのかもしれない。まる。
推しが武道館いってくれたら死ぬ(2)【電子限定特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)
徳間書店(リュウ・コミックス) (2016-09-13)
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