『冒険者絶対殺すダンジョン』(道満晴明)読了。
唯一無二の痛快異世界バイトテロファンタジー、開幕!!ダンジョン。それはロマンあふれる晴れ舞台。ただし、冒険者にとっての。清掃や備品補充にクレーム対応。アイネとナハトは、今日もダンジョンのフロアスタッフとして裏方稼業に精を出す。
「――クソ冒険者が」
寄って集って他人の迷惑を顧みない冒険者たちに、いまダンジョン側が牙をむく!唯一無二の痛快異世界バイトテロファンタジー、開幕!!
壮大なファンタジーというわけでもなく、濃厚で重厚ないわゆる「なろう系」でもそれを踏襲した「なろうインスパイア系のオリジナル壮大」(←次郎インスパイアみたいに言うな)でもない。
流行りの転生設定で1話完結のライトに…しかしキチンと笑える毒満載の転生したら…がダンジョンフロアスタッフだったである。
こうしてアタシたちは転生した
こうしてアタシたちは転生した(1話)
主人公は長身女子のナハトとちびっ子のアイネ。
日本社会でトラックに轢かれて死亡する事故が多い(なろう系の異世界転生テンプレ)って思いつつ、私たちは注意力散漫でなく完璧な防御態勢なので、トラックに跳ねられない!と言った側から飛行機のエンジンが落下して死んでしまう。
ここまでたった2ページである。
凄まじいスピード感で予期せぬ突然死で異世界に転生したナハト&アイネ。
3ページ目にして世界観と設定を説明完了。
ウワサじゃトラックに轢かれると冒険者に転生して、落ちてきた飛行機のエンジンに潰されるとダンジョンのスタッフに転生するらしいぞ。(1話)
- トラックに轢かれて死ぬ…冒険者に転生
- 飛行機のエンジンが落下して死ぬ…ダンジョンスタッフに転生
そんなわけで、多発するトラックに轢かれて死亡と違ってレアケースな飛行機のエンジンが落ちてきて死亡して転生したナハト&アイネはダンジョンのスタッフになったのです。
ここまでたった3ページである。
ビックリするぐらい簡易に完結に設定・世界観を説明して起承転結がある。テンポ良すぎるにもほどがある!
冒険者絶対殺す
あんまジタバタすんなよ。どうせ私ら何度死んでも従業員室(ここ)から復活(リスポン)できるんだから(1話)
ナハトとアイネは冒険者でなくとも転生者なので復活可能。
フロアによっては「ローグライク」(トルネコやシレンのように入るたびに形が変わるダンジョン)があり、冒険者やモンスターがいない時に形を変え、従業員である彼女たちは感情に入らず、ダンジョン変形で巻き込まれて死んでしまう。
これは使えるとローグライクのフロアの地形変形を利用して冒険者を殺したり…あの手この手で冒険者絶対殺すをやってのける基本1話10ページのギャグ漫画です。
…決めた、いつかあたしは、このフロア…いやこのダンジョン全体を冒険者を絶対殺すダンジョンにしてみせる!(2話)
2話にして「冒険者絶対殺すダンジョン」ってタイトル回収である。1話で気に食わないから…ぐらいのつもりでしたが、2話で明確に冒険者絶対殺すダンジョンって決意する。
冒険者を殺す方法が毎度「よく考えつくなぁ」と唸るレベルで面白い。まあでも、ナハト&アイネが自分に跳ね返ってくることも多々あり、冒険者殺すけど自分達も死にまくるのもいい塩梅で「ざまああみろ!」だけでなく絶妙になってる。話もうまく広がってく。
ネタがスゴイ
(希少性高いエリクサーは)入手した冒険者は使い所を出し惜しみしてしまい、結局使用する機会なく冒険を終えてしまうことが多い。その余ったエリクサーを我々が回収してこうして保管している(5話)
道満晴明作品といえば数ページ(今作は10ページ)で下ネタとブラックジョークとメタとグロと毒がギュギュっと詰まってます。あとすこし不思議。
今作はいわゆる「なろう系」の設定を踏襲しつつ、「その発想は凄い!」ってアイデアが満載で思わず膝を打つ。例えばダンジョン管理人だからこそ、エリクサー症候群で冒険者が結局使わなかったエリクサーを大量に回収してたり…。その発想が素直に上手い。
中にはかなりエグいブラックジョークもあるものの、かわいらしい絵柄と軽いノリのために、胃に負担かからずスプラッタもライトに味わえます。嫌味もない。
この辺のバランスが本当に絶妙で、この絵柄だからこそ!この軽いノリだからこそ!このショートショートだからこそ!で成り立つ。さらにちょっと良い話なんかまであり、まさに漫画界の星新一ですよ。丁度良い短い1話完結ギャグ漫画。
下ネタやクスリとするネタも多く、こちらも絶品!
親の顔より見た内装
メドゥーサは鏡が苦手ってことで対策として「メドゥーサ見に行く号(MM号)」がどう見てもマジックミラー号だったり…。
これだけでも吹き出すレベルのツボなのにさ。いやいや…アイネさん…あんた転生前は花の女学生だったじゃん。「親の顔より見た内装」っておっさん視点なの何なんだよwwww
ナハトとアイネは良いコンビだし、どっちもボケも突っ込みも出来るリバーシブル仕様なんだが、あえて読者が「おい!」って突っ込むようようなシュールギャグまで使いこなすから恐ろしい子たちである。
あらゆるギャグを使って笑わせてくれる。
ただのショートショートでもない
(おいジャマだのモブ冒険者が後に…)2話
基本1話完結の10ページで展開されるショートショートで、きっちりユーモア満載で笑わせてくれるエピソードの数々。にも拘わらずきっち話が繋がってたり、この描写はそれに繋がるのかよって驚きを持つストーリー性もある。
例えば1話の現実世界で多発してるトラックにはねられ死亡した人って設定説明キャラが後に繋がったり…初期に登場してたモブキャラが後に重要キャラになったり…と。
1話完結できっちり「起承転結」付けてるショートショートの面白さだけに留まらず、後から読み返すと「あ!これそういうことだったのか!」とか「このキャラこの時点で出てる!」って発見がある噛めば噛むほど(読み返せば読み返すほど)新しい味が出るスルメ漫画にもなってる。
そんなストーリーの積み重ねる連続性まできっちりあるのです。
1話単品でも物語全体でも楽しめる
これ聞いた話なんだけど、あたしたちがこの世界に転生してきたように、こっちにの世界から元の世界に逆転性する方法があるらしいの。条件が確定してないから都市伝説になっちゃってるけど、ウワサじゃ転生した時には死体が残らないらしいわ(15話)
ショト-ショートに展開され、1話完結でどっかの1話だけ読んでも楽しめる「つくり」になっていながら、実は全編通して読むと重厚なストーリーになってるのではないか説を提唱したくなる「完成度高い全体像」が想像できるんですよね。
アイネが仲良くなった転生冒険者が亡くなっても、ま復活するし明日には会えるだろ…って、軽いノリだったのが二度と会えず。その真相が噂レベルながら救いのあるものだったりするわけで。これ細かい設定大好き厨なら惹かれる「今後の布石」よね。
8話
転生者は無限にセーブポイントから復活できる。また、死んでも古い肉体はそのまんま放置され死体が残る。アイネが死にまくった死体はそこかしこに残ってる。
それを踏まえて、アイネと仲良くなった転生者は死体が残らなかった。噂レベルでも、もしかして…と思わせるし謎の感動まで生む仕様になってる。1話単体で面白いし、全編通しても楽しめるストーリー漫画の要素もある。
1巻段階では色んな想像・妄想できるところもよりディープに楽しめるところ。普通にショートショートとして1話完結ブラックジョーク満載のギャグ漫画としても最高なら、裏で何かが走ってる重厚作品&哲学チックなメッセージ有りの作品としてウィング広く楽しめる。
バラエティ溢れるショートショートながら深いですぞ。
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