『グラップラー刃牙』の地下闘技場最大トーナメントは格闘漫画史に残るイベントでした。
今の時代にやればほぼMMAルールのような形になると思いますが、当時は「どの格闘技が最強なんだ?」という異種格闘技幻想がありました。個性豊かなキャラたちの戦いは胸を熱くしたものです。
その中にはパッとしない選手もいました。シュートレスラーの山本稔である。ある種のネタキャラとして一部に愛されてますが、彼を再評価したいと思う。
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バランスがいい山本選手が!?
山本稔がネタにされるのは試合でロクなところが無く惨敗。バキの「あのバランスのいい山本選手がッッ…」という迷言によるものでしょう。
は…反撃ができない!!!(216話)
1回戦の相手は天内悠。飛び蹴りを一撃食らって壁際まで吹き飛ばされ、「き…消えッッ」と相手を見失い上から踏みつけられまくってそのままKO負け。
一撃も当てるどころか攻撃すらすることなく、何もできずに惨敗でした。トーナメント参加選手の中でも屈指の無様なやられっぷりを披露しました。
また、バキが一方的に踏みつけられてるシーンでの迷言も彼がある意味伝説化したのに拍車をかけています。
あのバランスのいい山本選手がッッ……
『スラムダンク』陵南の「3年の池上(後に守備に定評のある池上)」と同じく、他に表現したり挙げる点はないのかとツッコミたくなるような絶妙な特徴である。それが「バランスのいい山本選手」です。
この「バランス」とは何を指してるのか。格闘家とて「(打投極が高水準な)バランスがいい」なのか、踏みつけられてる最中で立てず反撃できず状態だったので「(身体の体幹的に)バランスがいい」なのかもよく分かりません。
つまりバランスがいい山本選手は何のバランスがいいのかも分からないのである。
そういうわけでネタキャラのような扱いを受ける山本稔。ただね、私はその評価に対して異論を挟みたい。ちょっと待ってくれと。フォローさせてくれと。
山本選手は擁護できる点がたくさんある。
作者がそもそもモデル(船木誠勝)を嫌ってた説
船木誠勝=山本稔
山本稔のモデルは当時パンクラスのエースだった長髪時代の船木誠勝選手である。名前の「みのる」は鈴木みのる選手からでしょう。まさに掌底時代の初期パンクラス体現者!
プロレスラーの中ではいわゆる「U系」と呼ばれる系譜です。船木選手は新日本プロレスから前田日明や高田延彦が立ち上げた「新生UWF」へ移籍しました。後に船木選手はパンクラスを立ち上げます。
で、作者の板垣先生は「板垣恵介の格闘士烈伝(AA)」の中でこんな事を言ってました。
興行として長い歴史を持つプロレスは、勝ち負けのみを目的としていない。凄味を見せることもその大きな目的になっている。勝つことだけを考えるなら、相手の技など受けなかればいいのだ。相手の能力など何ら引き出す必要はないのだ。その凄味を見せつけたところに、プロレスの魅力があり、崇高さがあると俺は思っている。だから当然いただけないプロレスラーがいる。とくに格闘技路線を名乗り、従来の興行としてのプロレスを否定しながら、その実、古式豊かなプロレスを行っている人間だ。俺にとってUWFは擬似格闘技だった。
UWFが出た時「すべて勝ちに行く。技を受けない。モロに蹴りが顔面に入る」と聞きこれは凄いぞってなったよ俺も。で生観戦すると打撃を顔面に受ける前に首に異常に力が入ってる。来る事が分かって受けに入ってる。蹴りも掌底も返しがない。ダウンする時に受け身を取っているのを見てもう、お口アングリだ。すぐに模擬だと気が付いた。(中略)言うなれば模擬格闘技は模擬プロレスでもあった訳でまったく俺の感動したプロレスとは違う。
ボロクソである。
船木選手がエース時代の初期パンクラスも真意は定かでありませんが、参戦してた外人が八百長だったと暴露したり、本格的に総合格闘技に移行してもライバル団体の修斗がパンクラスについて「過去の不正試合問題」と公式サイトに出すなど初期は色々とグレーゾーンである。
船木誠勝(山本稔)は「U系」「模擬格闘技(だったかもしれない初期)パンクラス」で板垣先生がめちゃくちゃ毛嫌いしてた可能性は高い。つまりモデルからして作中でボロクソに描く気満々だったかも。知らんけど。
また、見方を変えれば山本選手は評価できる点もある。
選手入場
今の自分に死角はないッッ!!
シュート・レスラー 山本稔!!!(185話)
アナウンサーが選手を軽くキャッチコピーをつけて紹介した全選手入場。「虎殺しは生きていた」などカッコイイ言い回しです。おそらくアナウンサー独自の意見で言ってると思うのですが山本選手は「今の自分に死角はないッッ!!」ですよ。
これはひょっとしてアナウンサーに「今の自分に死角はない」と事前にコメントしてた(こう紹介してと頼んだ)可能性が微粒子レベルで存在する。もしそうなら自身を売込む事に余念がないプロレスラーの鏡である。
対戦相手が急遽変わった
本来の対戦相手だったジャガッタ・シャーマン(208話)
一方的にやられた天内悠戦は急遽対戦相手が変わったのも擁護できる点です。
当初の対戦相手はジャガッタ・シャーマンでした。しかし、途中でやってきた勇次郎に潰されてしまい、天内悠が推薦され土壇場で対戦相手変更ですよ。
いつ何時でも戦うってのがバキシリーズの格闘家の美学ではありますが、山本稔選手は「シュート」を標榜してますがやはりプロレスラー。そんなん知らんわって感じでしょう。それでもいきなり対戦相手が変更しても文句ひとつ言いませんでした
215話
いきなり対戦相手が変わっても「完成された格闘技を見せるだけのことだ」と懐と器の大きさを見せたのである。完成された格闘技が何なのかは永遠の謎ですが…。
冷静に相手を分析するタイプ
何より山本稔の相手を研究するスタイルだったと推測される。
ジャンプしてからの技……。予測できるのはテコンドーや空手などの跳躍をともなう打撃技!捕まえるまでが勝負か…(216話)
控室の少ない情報から誰か知らない天内悠がどういう選手だったかを推測していた。
この着眼点と研究して勝利の方程式を頭で描くのは素直にすごい。しかもジャンプ打撃(蹴り)は合ってました。ズバリ正解!ただ予想より天内のジャンプ力と滞空時間が長ったのが致命傷になった。
天内悠のジャンプ力と滞空時間を知ってればもっと良い勝負できたかもしれない。「捕まえるまでが勝負か…」通り捕まえてたかもしれない。
山本稔選手は相手を少ない情報で瞬時に研究・計算して勝利の道筋を見つけるタイプである。急遽対戦相手変更、それでもちょっとした事で相手をほぼ丸裸にしてたのだ。「完成された格闘技」が何なのか知りませんが、これは評価できる。
生存本能がある
273話
勇次郎がビンビンに滾ってしまい、勝ち上がってる選手を全員集めろ!と戦う気満々でトーナメントが台無しになりそうなところで敗退者たちが立ち向かう。そこに山本稔の姿は無かった。
天内戦で再起不能になったかと思いきや、その後のアレクサンダー・ガーレン登場に普通にビビってる姿が確認できます。
ガーレンにビビる山本稔(256話)
決勝後に刃牙を出迎えた姿といい、金竜山とかよりも全然軽傷である。それなのに勇次郎に立ち向かった者の中にいませんでした。
ビビッて控室で震えていたのか、たまたまトイレに行ってたのか、鎬紅葉にお呼ばれしなかったのかは定かではありません。でも「勇次郎と戦わなかった」という点も評価できる。なぜなら立ち向かった敗退選手はボッコボコにされてましたからね。
山本稔は危機回避能力・生存本能に長けてると言える。勇次郎になんて複数人がかりでも勝てるわけないんだから、戦わなかった山本稔は生物として正しいのだ。
まとめ
そんなこんなで「バランスがいい」「完成された格闘技」は謎ですが、以下の点が素晴らしい選手だった。
- 突然の対戦相手変更でも文句言わない器の大きさ
- 冷静沈着で瞬時に相手を見極める着眼点
- 危機回避・生存能力がある
山本稔選手はもっと評価されるべき!まる。
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コメント
オチで笑う
バキの「バランスがいい」は
(打投極をそれぞれ持っていて)バランスのいい(シュートレスラーの山本選手が、空中から蹴り続ける天内の闘い方に対応出来ない)
だと思ってって読んでた
オーガに挑まなかったのは真の護身の領域か
山本さんも草葉の陰で喜んでますよ