なぜだろう…谷川史子作品を読むとほんわか幸せな気持ちになれる(ポエム)。
帯にある「ほろ苦く甘酸っぱいひとひらの恋」というのはその通りである。
やはりね、谷川作品は不動の王道で読むとポカポカと温かい気持ちになれるね!
『ブルー・サムシング』は短編集である。表題作の「ブルー・サムシング」を筆頭に、「おかえりなさい。」「海は空を映して青い」「途中の棲家(前編)」「途中の棲家(後編)」「ほしのゆくえ」「告白物語」が収録。やっぱ谷川作品はいいっすね。男が読んでも普通に楽しめる。今作も珠玉の短編集である。
とてもええ
表題作の「ブルー・サムシング」は、元夫が再婚する話。
もともと嫌い合って別れたわけでなく、ただただクズ男と別れて…それでも好きだったとか思い出がとかそういう類の話。はっきり言って、設定は私の心の琴線には触れない。
それでも、谷川先生が描くと、なぜかほっこりしてしまう!
心が温かくなるのこそ谷川作品の真骨頂!
この短編集で好きなのは「おかえりなさい。」でしょうか。
谷川先生の描く女性は応援したくなる魅力があるのですけど、「おかえりなさい。」の主人公には頑張れ頑張れってひたすら応援したくなるってもの。姉の夫、義兄に恋する女性の切なさ全開のエピソード。
「自分の気持ち」という中で「好きになっちゃいけない」や前を向く・過去・現在が交差しまくる。冷静に読むと「で、どうしたいの?」と思うんだけど、感情に流されると「どうしようもない!切なすぎる」と思うこと受け合い。
短編という短い尺で、きっちりキャラの掘り下げをしているので、感情移入しておじさんは泣きそうになっちゃうよ。どのエピソードも「この後は…?」という気になるところで終わってしまう。まあ、これからの「未来」を見ているんだけどね。
『海は空を映して青い』は、離島に住む学生の幼なじみの男女と離島出身の東京で成功した女性のエピソード。
東京で色々あって、つい故郷に帰ってきた女性は生まれ故郷の離島から見える海を見て色々と思う。
面白かったのは語り手のナレーションは学生の少女なんだけど、感情を動かされて変わっていくのは東京から来た女性ってのが良かったね。
王道というかよくある、東京で疲れ切って生まれ故郷の田舎に帰って「大切な何か」を思い出す系統のエピソード。
だけど、谷川先生が描けば100凡のシナリオでも極上の料理に仕上げてしまう。
あ、何か思い出した!
特に良かったのは「海」の感想かな。
最初に離島に帰ってきた時に「この海、こんな色だったかしら」と述べていたのが「こんな青だったわ」と海を見た感想が変わっている。
ぶっちゃければ同じ海で同じ色なんだけど、彼女にとっては違った色に見えていた。
海の色の感想がキモだよ。うん。
海の色は変わってないんだけど、それを眺める彼女自身は変わっている。風景は変わらないけど、それを見る人間は変わるのだ。そんな彼女が昔の海と同じ色を「見た」のは実に良いね。内面の移ろいを見事に描いている。ブラボーだ!
そして今短編で一番と個人的に思うのは『途中の棲家』かな。
「前編」と「後編」の2話構成からなるダメ女の成長物語。
すごく良かった。
谷川先生は天然で元気いっぱいのダメ女描かせたら右に出るものないね。
一緒に住む姉が結婚することになり、部屋から出てけと言われ、部屋を探す前編と仕事を見つける後編。「本当に」住みたい部屋、「本当に」向いてる仕事というものを探す物語。人が生きるって事を濃縮していたと思う。主人公のサラッと述べる台詞が良すぎる。
「自分で自分のこよちゃんとやって1日がんばって、夜ぐっすり眠れる人になりたい」って、台詞には色々と考えさせられた。名言である。果たして自分は出来ているのだろうか、と。単純なようでなかなか難しい。
『途中の棲家』は続きを読みたいですね。
これ連載にしないのもったいない!ってぐらいの出来。
そしてラブコメ要素満載なのは『告白物語』。はじめて喧嘩した高校生カップルの話には、ニヤリング&ローリングで身悶え3回転半を記録するってもの。
ふぅー堪能した。ぶっちゃけ表題作の「ブルー・サムシング」があんまり心の琴線に響かなかったんだけど、全編通してみれば谷川作品の魅力満載であった。
それは、読めば心がポカポカと温かい気持ちになることなり。
切ない中でも「幸せ」が私の心の琴線に触れるね。
仕事に疲れた時に読みたい、心の清涼剤である。まる。
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