カルト的人気を誇る『孤独のグルメ』の久住昌之先生と、『喰いしん坊!』『極道めし』の土山しげる先生のタッグが描く『荒野のグルメ』1巻が発売されました。
このタッグは漫画版『野武士のグルメ』もありますが、個人的には『荒野のグルメ』のほうが心の琴線に触れてしまう。
最高の呑み漫画!
なぜかって言えば、感情移入というかな。酒や飯を食うその気持ちがより理解できると思うのが圧倒的に『荒野のグルメ』の主人公・東森良介(48歳)に軍配が上がるからに他ならない。
下戸でご飯がないと切れるゴローちゃんより、定年退職したおっさんの道楽飯よりもね、現役で社会の荒波に揉まれる中で心のオアシスとしての飯&酒をヒーリング効果とする気持ちが悲しいほど理解できてしまうのだ。
馴染みの店は癒す場所
馴染みの店と書いて「荒れ野の水場」と読む。
その心は、社会に疲れきった現代人の心を癒してくれるオアシスであるからである。もうね、社会の荒波に揉まれ乾いた心になるとね「癒やし」を求めてしまうのだ。この気持ちは20代の若者には理解できないでしょう。30代を越えるとね、ものすごーく分かるんですよ。
私もね、贔屓の店の一つや二つあります。
特にお気に入りの焼き鳥屋なんてね。何年も足繁く常連として通って、毎回のようにコースで8本串と生ビールを頼むとね。顔を覚えられるどころか、同じ注文しかしないと思われ、今では店に入るだけで勝手に生ビールと8本串コースが出てくるようになりました。
今日はちょっと違うモノでも頼もうと思っても有無を言わせず勝手に出てくるようになりました。
まあ、それも一つの憩いです。
社会人生活が長くなるとね、そういう店の一つや二つがないとね。
そんなわけで『荒野のグルメ』は無駄に共感できるのである。
日々の疲れを癒やすために酒を呑む…これがおっさんのジャスティス!
「ここは荒野のオアシス…心の中に満月が昇る…」
思わずポエムを口ずさんでしまう東森良介(48歳)。
営業畑で社会の荒波に揉まれ、課長という上司と部下の間に挟まる悲しき中間管理職である。理不尽な社会人生活に疲れきり、癒やしとして今日も馴染みの店で酒を呑む。
サラリーマンとは、都会の荒野で彷徨うカウボーイのようなものである。
疲れたカウボーイは、止まり木の酒場へ今日も向かう―。
つまり、社会に疲れたから行きつけの酒場で癒されるって漫画です。
『孤独のグルメ』『野武士のグルメ』が、行き当たりばったりで適当に入った飯屋で食うのに対して『荒野のグルメ』は1つの行きつけの店で飯を食い、酒を呑むのだ。浮気はしません!(例外はあるが)
適当にブラブラして店に入る『孤独のグルメ』『野武士のグルメ』が開拓者ならば、『野武士のグルメ』は1つの店に拘る研究者ってところかな。
そこで、新たな発見をする。料理の美味さ、酒の美味さを堪能して癒やされていく。
今日もオアシスで癒される
今日も社会に疲れし主人公・東森良介(48歳)は馴染みの店で酒を飲んで癒される。
この漫画は、明らかに『孤独のグルメ』の二匹目の泥鰌を狙いに行っ外してる。
にも関わらず、飯を食うその行為よりも、遥かに癒やしとして酒を呑むのがクソ面白く描かれるという新たな新境地に辿り着いたことでしょう。
最初に読んだ時はゴラクは完全に『孤独のグルメ』の二匹目の泥鰌を狙いに行った感が透けてみえましたもん。
明らかに孤独のグルメの二番禅師である
どう見ても『孤独のグルメ』の二匹目の泥鰌を狙っている。
つくねを大人の駄菓子と表現するなど。
まあ、事実、狙ったんでしょうね。
久住昌之&土山しげるのコンビって時点で最強の飯食い漫画になるって単純な方程式を計算したのでしょう。
だがしかーし!『孤独のグルメ』は、あのシュールな絵柄の谷口ジロー先生が描いてこそ成立する奇跡の方程式だったわけだ。あの独特の味わいは再現できないよー!
まあ、飯を食うことだけでもそれなりに面白い。
「キャベツ炒め&カツサンドse焼酎ソーダ割り」では、『孤独のグルメ』で「ソースの味って男の子だよな」と謎の名言を残したカツサンドを題材にしたエピソード。
カツサンドを食いながら新幹線に乗るメタファーを効かせつつ、さらに藤子不二雄A先生の『まんが道』で食われたメンチパンを被せてきました。
カツサンドをまんが道に被せてきたー
カツサンドを食う事で、テラさん直伝の「フランスパンのメンチカツはさみ」(コロッケの場合も有り)を被せてきて、おっさん直撃のノスタルジックな味わい深いものを描いてきました。
しかしな…。
あえて『孤独のグルメ』と同じモノを食って、よりダンディなリアクションしてもなぁ。
『まんが道』を被せることで、やはりハードルは無駄に上がってしまうわけだ。
「これこれ」とか、新富士が見えるというリアクションよりもな、ゴローちゃんの「上等上等」や満賀道雄の「ンマーイ」の一言には勝てんのだよ。
上等上等&ンマーイ!
やっぱ本家のリアクションは凄いよ。
それなりに『荒野のグルメ』は飯食い漫画としての完成度は高いよ。
私の心の琴線に触れます。
しかし、最高峰の飯漫画かっつーとどうでしょうね。
あくまで個人的な感想ですが、最高の飯食い漫画ではないかな。
だ・け・ど!
『荒野のグルメ』もまた、謎の奇跡的な化学反応を起こしているのである。
飯漫画っつーよりも、酒呑み漫画としてな。
原作者の久住昌之先生は「わざわざ並んでまでラーメンを食うものはラーメンじゃない」というオレ食イズムの持ち主である。土山しげる先生の暑苦しい…失礼、情熱的な絵柄であえて癒やしとして酒を呑むこと。これが謎の化学反応を起こしている。
酒を呑む
あくまで『荒野のグルメ』というタイトル通り、美味しい飯を食う事に重きを置いてるし、コマの割かれ方も飯を食う事のほうが大きなコマである。飯をウマそうに食う、間、間に酒を呑む小さなコマのリアクションを見て下さいよ。
めちゃくちゃ味わいがあるよね。
日々の生活の疲れを酒を呑むことで安らいでいくのが実に良く描かれております。謎の感動を生みます。
分かるわーって。
「酒を呑む」という行為の真髄がある。
今回の記事でもそうですけど、私は一貫して酒を「呑む」と書く。
酒ってのは「呑む」ものだという私のコダワリがあるからである。
「飲む」は液体をのむ、「呑む」は個体や物事をのむ…と区別される。正しい言葉なら酒を飲むでしょう。でも、酒ってのーはね、日々の嫌な事を呑み込む効果があるんだ。だから酒を呑むんだ。
会社が仕事が遠ざかる…部長?誰それ顔も思い出せん
酒呑みってのは無我の局地みたいなものなの。
この酒を「呑む」という至福の癒やし。
これが凄いよく表現されて描かれている。
これはグルメ漫画の皮をかぶった、酒を呑む漫画である。
しゃあない、明日も頑張りますかぁ!
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