『JJM 女子柔道部物語』(原作・恵本裕子/脚色・構成・作画・小林まこと)1巻が発売されました。アトランタオリンピック女子柔道61kg級で日本人女子柔道ではじめて金メダルを獲得した恵本裕子さんの実体験を元に小林まこと先生が架空の少女・神楽もえの柔道物語を描く。
『柔道部物語』から25年、小林まことが再び“本格柔道漫画”を描く! 原作はアトランタオリンピック女子柔道61kg級で、日本女子柔道界に初めての金メダルをもたらした恵本裕子!! 雪の旭川を舞台に世界の頂点を目指す白帯の女子高生が世界の頂点を目指す!
※マガポケなら無料で読めます。
1巻ではまだまだ序章って感じですけどすでに名作になる臭いしかしない。ほぼ金メダリストの実話を元にして、なんたって『柔道部物語』の小林まこと先生が描くとか約束された勝利の柔道漫画じゃないでしょうか。間違いない。
個人的に、柔道漫画で一番の名作は何かと聞かれたら私は迷うことなく『柔道部物語』であると即答するね。作者の実体験で当時の柔道部のリアルな描写。ずぶの素人だった主人公が成長していき、スピーディーでテンポ良くかつハラハラドキドキしながら日本一を目指すぐう燃える柔道部漫画である。
『キャプテン翼』が世界中のスター選手たちのバイブルだったというのは有名なエピソードですけど、『柔道部物語』も柔道メダリスト達のバイブルです。柔道版キャプ翼のような立ち位置といっても過言ではありません。
ちと『柔道部物語』について語ろう。
『柔道部物語』は傑作
俺は三五十五(さんご・じゅうご)。高校に入学したばかりで何も知らない俺は、先輩たちの甘い言葉に乗せられて柔道部に入ることにした。ところが、入部したとたん、先輩たちの態度が豹変。シゴキはあるわ、坊主頭にさせられるわ、もちろん女の子との交流会なんて真っ赤なウソ。でも、一度やると決めた柔道だ。強くなってみせるぞ――!!読み出したら止まらない!!珠玉の本格柔道コメディ
最初は主人公・三五十五が騙されて柔道部に入部し、柔道部のドタバタコメディ路線だったのですが、古賀稔彦さんからファンレターが届き十五が日本一を目指す本格柔道漫画に切り替わります。日本一を目指す岬商業高校柔道部の熱いこと。ボルテージの上がりっぷりは半端じゃありません。
特に十五のライバルたちが個性的で良いキャラしていました。樋口、飛崎(兄)、千代崎、そして西野…。名試合ばかりですわ。
物語前半の最強ライバル・樋口久
最強のライバル・樋口
江南高校は同じ県内の最強校。最初は遥か格上の学校でしたが、岬商業が全国を経験し日本一を本格的に目指すようになり後半はインフレについていけなくなった学校でもあります。全国大会までやるスポーツものでは、全国でさらなる強豪と戦うようになると、地方大会のライバル校が途中で埋もれてしまうのはよくある構造でもあります。
江南高校はそういう地方大会の最強校として登場し、全国大会がメインになってしまいライバル校の地位から落ちてしまいました。大脇と飛崎(弟)も良い選手だったけど終盤の十五の相手として見ると格が落ちる。ですが、そこに所属してた樋口はインフレについていけなくなったわけでなく、最後までキャラとしての格を落とさなかった男です。
十五が1年時の夏、3年主将でエースだった斎藤に勝利した同じ年の最強キャラ。1年にしてインハイも制して日本一になった樋口は十五が目標とした天才キャラでした。三五との公式戦は2回。新人戦と2年のインターハイ予選団体戦。怪我に泣いた悲運の天才である。
三五ともう一度勝負したい…
全国高校選手権大会では右ひじの怪我で見てるだけ。新人戦でまさかの敗北を喫してから右ひじの怪我で「十五VS飛崎(兄)」の名勝負を見て「こんな気持ちになったのははじめてだ…」と十五を強烈にライバル視して再戦に燃え上がるのでした。
驚異的な成長スピードで、格下だと思ってた十五に一目置いた樋口の再戦の夢は叶うことが無かった。いや再戦はするんですが、もはや選手生命が終わった状態での再戦でした。2年のインターハイ予選団体戦で2度目(合宿入れれば3度目)、最後の「十五VS樋口」は胸に刺さりまくる。
最後の「十五VS樋口」
最後の試合は背骨をずらす大怪我を負って柔道選手生命が終わっていた状態の樋口でした。この試合は名試勝負というよりも、天才・樋口の後を継ぐ十五という意味合いで何度読んでも目頭が熱くなる。最後に十五にぶん投げられたくて出てきたと思うと胸が熱くなる。
新人戦は十五いわくまぐれ、インハイ予選決勝は大怪我した状態でろくに立つことも出来ないのに気迫で凄まじい試合をした樋口。きちんと万全の状態で決着が見たかった。
もしも樋口が怪我しなければ…と読者が想像できる最強のライバルでした。終盤までずっと三五よりも格上的の選手としてフェードアウト。樋口はめっちゃ良いキャラでしたね。
絶妙な中ボスだった飛崎(兄)と千代崎
飛崎(兄)
飛崎(兄)は十五の1つ上で同じ階級。2個下に才能は兄以上(らしい)の弟も出たけどやっぱ兄のが遥かに強敵で良いキャラだったよなぁ…。十五が2年までの県大会では絶妙な中ボスでした。
木場工業自体がそれほど強豪では無いのに1人で孤高奮闘するのはなかなか熱い。十五とは新人戦で準決勝で当たるはずが途中でトーナメントをリタイアし、春の高校選手権予選とインハイ予選決勝の2回試合しました。
はじめて十五の一本背負いが効かず大苦戦するなど、地方大会の中ボスとして良いキャラだった。樋口がいなきゃ間違いなく全国行けた実力者であり、十五との2度の試合はどちらもグッド。試合以上に、再起不能の怪我の樋口にためらってた十五に「これからはお前の時代なんだぞ!」「樋口にとどめを刺すのはお前の役目だ!」と叫ぶなどキラリと光る名キャラでしたね。
県予選の中ボスとして飛崎(兄)が良いキャラだったならば、全国大会の中ボスだった千代崎もなかなかどうして。最高のライバルでした。
千代崎
名門・耕談館大学付属高校のエースで十五とは同じ年で同じ階級。イケメンキャラとして性格も良く努力家で好青年でした。十五とはきちんと描かれた試合は2回(作中で3回試合してる)。十五とは1勝2敗。まさに良きライバルって感じでした。
最初の試合である2年のインターハイ個人戦準決勝はぐう燃える名勝負でしたね。十五に優勢勝ちしたものの、もし時間外の一本背負いが決まっていたら敗けていたと。描かれた「VS十五」の試合は全て手に汗握る熱いものでした。
『柔道部物語』で一番面白いところは「もしも…だったら」って想像できるところだと個人的に思うわけで。春の高校選手権の準決勝で再戦して十五に敗けるんですけど、団体戦で勝ち抜き形式でしたから。十五に回すまでに相当疲れさせた状態だったし。スタミナ万全だったら…どうだったかと思ってしまう。消耗し左手痺れてたのに試合後にそれを言い訳にしなかったのもナイスガイすぎる。
まあ、でも同時期に登場して最強として最後まで君臨し続けた西野に比べるとインパクトは霞んじゃうんだけどね。十五とは名勝負を繰り広げるも西野相手には全て秒殺で敗北しましたから。ザ・中ボスって感じです。
どんなに努力してもむくわれないこともあるのか!!
西野にまったく通用しなかった千代崎。3年の金鷲旗・準決勝で西野に一本負けした時の「どんなに努力してもむくわれないこともあるのか!!」は涙を誘う。まあ仕方ない。ラスボス西野が化け物すぎたんです。
続くぞい。
コメント
まさか可愛い子をペロペロするのが好きなヤマカムさんが(失礼)柔道部物語を紹介するとは。
柔道部物語は柔道をやっていた父の影響で家にありましたが、確かに傑作でした。ホント熱かったです。今でも紹介してくれた場面全てを覚えています。試合の迫力は凄かったなぁ。西野との最終決戦は文字通り手に汗握りましたよ。
っていうかこの紹介で続編が出たことを初めて知りました。ありがとうございます。
ただ見たいような、思い出にしておきたいような……不思議な気持ちです。
本編中で三五十五は基本三五の父ちゃん母ちゃん以外はみんな三五と呼ぶから、十五と書かれてるとちょっとモヤモヤしちゃうなぁ。
新潟市の高校を下敷きに書かれているので親近感が湧いてました
岬商業はモロに新潟西高でしたから
ヤマカムさんのレビュー大変楽しく拝見させていただきました。
文面から柔道部物語への愛が感じられ、ファンとしては抑えて欲しいポイントも余すことなく紹介されており素晴らしいレビューだと感じました。
ただ一点、ごめんなさい、どうしても気になったので訂正させてください。
個人的に柔道部物語は格闘マンガの最高峰だと思っており、今まで何度読んだか分からないくらい読み返しているのですが、ヤマカムさんの書かれていたココ
“5人の新一年生が加わった。
彼らが2年後、岬商柔道部史上最強のチームを作ることをこの時点では誰も予想できなかった。”
これ、本編では史上最強ではなく“史上最低”なんです。三五率いる三年生と田丸などのレギュラー2年生が猛練習をしている中で、新一年生は3年生の名古屋に「俺をめざせ!!」と言われ素直に言うことを聞いてしまうんですね。おそらくこのせいで2年後田丸たちが抜けたあと弱小チームに成り下がるのだと思われます。
初めてこの部分を読んだときにガッカリした記憶があり、また読み返してみましたがやはりそうでした。これが小林まこと節のギャグなのでしょうけど、ちょっと残念ですよね。
ちなみに1.2の三四郎2に三五と西野がカメオ出演してまして、三四郎と赤城の対決を見に来ている群衆の中に紛れています。そこにマイケルもいます(笑)。三五たちは首からメダルを下げていたような記憶もありますが、手元にこの巻がないので未確認です。小林先生は過去のキャラをちょこちょこ出してくれるのでファンとしては見る度に毎回ほっこりしますね。
初めまして。
にこ氏のコメントが気になったので一言。
ヤマカムさんの記述はまちがってないと思いますよ。
田丸ら5人の入学した2年後であるから、彼らが岬商業最強の世代で間違いないと思います。彼ら5人が三冠王を果たしたのでしょう。
そしてその一学年下の「小林・楠・服部・下坂・田中」(皆、小林先生以下、先生の友人漫画家の名前)新入部員が入部した時から2年後に「史上最低のチームを作る」との記述なのでなんら矛盾はしていません。名古屋の悪影響を受けたまま史上最低のチームを作るのでしょうね。
最強の後に最低のチームが出来上がる部分なのがギャグなんでしょう。その時の五十嵐先生の立場を考えると風当たりがきつそうで不安になります。
ちなみに三五は彼女のひろみとそのまま結婚しておりました。
不甲斐ないオリンピックの成績を世間から叩かれた鬱屈を妻にぶつけ、子沢山のパパになっているのも、「格闘探偵団」で描かれておりました。
この作者は続編で前作の登場人物を落ちぶれさせるってパターンをいい加減止めてほしいな