「楽園」本誌&web増刊で発表されたいずれも値千金の読み切り作品10本を収録した著者久々の作品集。SFから昔話、ロシア近代文学まで幅広いジャンルを軽妙に描いた読み応え抜群の一冊。
『ワルプルギス実行委員実行する 速水螺旋人作品集』読了。
速水螺旋人先生の短編集。SFやファンタジーや昔話や近代と幅広い舞台に10作を収録。とても良かったです。まさに珠玉の短編集でしたわ。
『ワルプルギス実行委員実行する 速水螺旋人作品集』
収録作品は全10作。
- 総選挙の魔女
- ペーパーカントリー
- ダンジョンと大銀行強盗
- 勇者は如何にして心配するのを止めてコロナウイルスを愛するようになったか
- あゝ戦友よ、くだんに会おう
- 墓が戦車でやって来る
- 外套(原作:ニコライ・ゴーゴリ)
- ワルプルギス実行委員実行する
- わからず屋
- フセスラフ人狼公の花嫁
総選挙の魔女
魔女を使うことは公職選挙法に違反しない!
海外では魔女がいる世界観で、日本の選挙で魔女を使って当選しようとする陣営。花柄たまらはルーマニアから来た本物の魔女…ではなく、ただのハーフで魔法なんて一切使えない。しかし、ひょんなことで魔女に成りすまして選挙を手伝うことになる話。
ナレーションの解説が絶妙で思わず膝を打つ。コミカルなドタバタ劇場でどうなるかとハラハラ見てたら最高にほっこりできました。かわいい。
ペーパーカントリー
タイガイ=西トキヤ王国という架空の国で革命が起こり、王を書面で正式に退位させようとするもやれ電話が無い!カメラマンが必要!公文書作成には官吏の立ち合いが必要…と四苦八苦するコメディ。
血が流れがちな革命と王族退去をコミカルに描いたもの。苦労人の評議会委員さんが面白い。正式にルール通りの手続きは何かと面倒なんですよね。色んな意味で。オチが最高で吹いてしまう。
ダンジョンと大銀行強盗
『楽園 2019年冬増刊』で読み切り「ダンジョンと大銀行強盗」を描きました。タイトル通りで付け加えることはなにもありません。「主要電子書店にて販売中」とのことで、ひとつだけ挙げるのは心苦しくはありますがAmazonはこちら。https://t.co/sOqwzJYImk 面白いよー、読んでね読んでね! pic.twitter.com/RK9hc1Dt7Q
— Расэндзин🍥西な23a今月新刊単行本2冊発売中 (@RASENJIN) February 1, 2020
冒険者が銀行強盗をする話。名の知れた冒険者なのになぜそんなことを?それには理由があって明かされると「なるほどなぁ」と唸る。素直に上手いと感心してしまいます。
「ダンジョンと大銀行強盗」に限らず、速水螺旋人先生の短編はコミカルなドタバタコメディでありながらしっり「起承転結」あって完成度高い。
勇者は如何にして心配するのを止めてコロナウイルスを愛するようになったか
「楽園」2020年春増刊、各種電子書店にて配信が始まっています(紙の本はありません)。こちらでショート読み切り「勇者は如何にして心配するのを止めてコロナウィルスを愛するようになったか」を描きました。時事、うーんやや近過去ネタです。面白いですよ買ってね!https://t.co/FMpXORNU7X pic.twitter.com/7GNqQmUDeK
— Расэндзин🍥西な23a今月新刊単行本2冊発売中 (@RASENJIN) May 29, 2020
魔王を倒した勇者一行が日本のボロアパートで生活してる。魔王を倒す時にやらかしてしまって国に帰れない。で、日本ではコロナ禍真っ盛り。勇者はコロナを倒すために立ち上がるのだった。
もう設定だけで大渋滞なのに、長ったらしい説明文もなく漫画の中のやり取りだけで状況を理解できるのがすごい。
あゝ戦友よ、くだんに会おう
11月30日(月)より配信開始の「楽園」第34号電子版からご紹介、その6は速水螺旋人「あゝ戦友よ、くだんに会おう」。
身も蓋も無さでは沙村広明の、奇想天外さでは筒井康隆の系譜を引いているかの如き24ページ。
次号・「楽園」第35でも新作読み切り発表予定です。 pic.twitter.com/FP7VD3Kun5— 楽園編集部 (@rakuen_info) November 22, 2020
これはひどい…(褒め言葉)。
「あゝ戦友よ、九段(靖国)で会おう」と戦前日本兵の話を感動的に描く…ものでは断じてなかった。すさまじい奇天烈さとバカバカしさで腹筋を本気で殺しにくる。なんだこれ。
「くだん」は九段でなく件という妖怪である。人編に牛の字のごとく、顔が人間であとは身体は牛。予言をして死にます。その卵を4つ手にして(卵ってなんだよ!)、次々と妖怪・件の予言を聞いて、さらに○ってく2人の日本兵。
めちゃくちゃなのに「起承転結」できれいに落ちてる。しかし、どんな脳みそしてればこんなアイデア思いつくんだ…。速水螺旋人先生は天才か!
墓が戦車でやって来る
「楽園」冬のweb増刊・11日目は速水螺旋人「墓が戦車でやって来る」。配信開始した「楽園」第34号でも「あゝ戦友よ、くだんに会おう」24ページ掲載。ページ数に比して読み応えの抜群な名手による新作読み切りです。https://t.co/vl2mxecRi5
web増刊へはトップ左下のウサギのボタンから。 pic.twitter.com/46u1DV2PKr— 楽園編集部 (@rakuen_info) December 7, 2020
人が死ぬと戦車で墓がやってくる設定。相変わらずどういう発想なんだと唸る。どこに話が着地するか読めない二転三転するドタバタぶりと顛末はやっぱ完成度高し。
外套(原作:ニコライ・ゴーゴリ)
発売中の「楽園」第35号から改めてご紹介・5はニコライ・ゴーゴリ原作・速水螺旋人「外套」。
ロシア近代文学の嚆矢とされる作品をペンネームよろしくくるりと回転してお届けする28ページ。
画像はゴーゴリの登場する物語冒頭です。 pic.twitter.com/nY16TfjaeM— 楽園編集部 (@rakuen_info) March 16, 2021
ニコライ・ゴーゴリの「外套」を原作にして速水螺旋人節で調理した作品です。短いのにコミカルにしっかりまとまっております。
ワルプルギス実行委員実行する
「楽園」春のweb増刊、33日目のもう1本は速水螺旋人「ワルプルギス実行委員実行する」。作者ならではの季節ネタです。コロナが終息…は無理でも収束出来ました暁には皆様も良いサバトを。https://t.co/KqIj12EP1Z
web増刊はトップ左下のウサギのボタンから。 pic.twitter.com/DwY1AW5C0C— 楽園編集部 (@rakuen_info) April 29, 2021
表題作。ワルプルギスの夜宴を実行する取りまとめ役といて新米の魔女・雪解けのアポロニアが選ばれ場所探しにてんやわんやする話。まるで新入社員が会社の花見の場所取りするがごとくリアリティと魔女ってファンタジーのよい塩梅。
わからず屋
5月31日より配信開始の「楽園」2021年春増刊からご紹介その11は速水螺旋人「わからず屋」。
公開中の「ワルプルギス実行委員実行する」に続く著者の読み切り最新作です。
切れ味の良い不可思議な、どこまで連行されるか予測不可能な物語をお楽しみ下さい。 pic.twitter.com/KFoj7KmoLd— 楽園編集部 (@rakuen_info) May 22, 2021
発想が素晴らしい短編。「このわからずや!」とは日常的にある言葉ですけど、物語は「わからず屋」を営むお店である。わからないものを陳列してる。
しかし、「これは○○ですね!」とすごい知識で当てるクイズ王伊沢拓司氏のようなうざい客が現れ…。禅問答のようなラストが最高。わからないものはなんですか?(井上陽水風に)
フセスラフ人狼公の花嫁
6月30日(水)発売の「楽園」第36号から改めてご紹介その22は速水螺旋人「フセスラフ人狼公の花嫁」。4号連続読み切り登場の今回は24ページ、ですがとてもそのページ数と思えない読み応えです。「イーゴリ公遠征譚」として知られるロシア中世文学の中のエピソードがおとぎ話として甦りました。 pic.twitter.com/QQSkzNngOZ
— 楽園編集部 (@rakuen_info) June 23, 2021
フセスラフ人狼公の花嫁となったルーシのお話。やはり物語として綺麗に「起承転結」が収まってるので読後の満足度が高い。ラストの「あ!」と驚く展開には舌を巻く。
『ワルプルギス実行委員実行する』まとめ
1つの1つの短編は描き込みも話の転がし方もクオリティ高くて読み応え抜群です。まさに珠玉の短編集と断じるに些かの躊躇もありません。
「ファンタジーとリアル社会」の融合が特に良いよね。自然とそういう設定の世界観を作り上げて違和感感じずスルリと物語に入り込める。人間の俗っぽさをコミカルに描き、良い意味で風刺にメッセージ性にもなってる。
かわらしいポップな絵柄で緻密に描かれた背景・風景・建物は視覚的に楽しめる。中世風ファンタジーや近代風スチームパンクが素晴らしい。でも、収録されてるイラスト見ると、未来SFとかどういうテイストになるんだ?と思ったり。ゴリゴリの未来SFとかちょっと見てみたいよね。
それにしても、なぜ速水螺旋人先生は超人や人外を関西弁で喋らせるのでしょうか。普通の人は標準語なのにね。関西人は普通の人間では無いと主張してるように見える。知らんけど。
コメント