あの時代とあの時代の知られざる物語。
今年は戦後70週年である。太平洋戦争を題材にした漫画は数あれど、『戦争めし』(魚乃目三太)はこういう戦争の描き方もあったのかと目からウロコ。戦争飯!そんなのもあるのか!と驚く着眼点である。これは良い漫画だ(断言)。主役は戦時中の「食事達」だそうな。
『戦争めし』は作者の魚乃目三太先生がテレビのニュースで元日本兵の老人が描いた1枚絵に釘付けになり出来た作品。タイトル通り、太平洋戦争の飯事情がテーマ。戦争漫画ですが残酷だったとかをピックアップするのでなく、とっても温かい作品なり。
兵隊さんと戦地ゴハン。戦時下のお寿司屋さん。餃子と引き揚げ兵。激動の時代の中で生まれた感動の“食エピソードたち”。昭和初期の“グルメ”を“食漫画マスター”の魚乃目三太がほんわか温か~く描く珠玉のオール短編物語。
良い話ばっか
1巻に収録されているのは「幻のカツ丼」「潜水艦のおつまみ」「満州のアレ(包み物)」「収容所の焼きめし」「極寒のパイナップル」「戦火のにぎり寿司」「戦艦大和のラムネ」の7話。どのエピソードも珠玉の短篇集です。飯を通して温かい話というのはよくあるけど、それが戦時中というと、また違った印象を受ける。
まず、戦時中の食事の説明や解説が面白い。
太平洋戦争といえば「贅沢は敵」と言われてて常に食料不足で飢えていたという印象しかありませんでしたが、実は戦争末期までは、けっこう食事にこだわっていたとか。
読んでて、へぇーって唸るぐらい勉強になります。例えば、兵士1人に対して食糧だけで20キロあったので、リュックを軽くする為に1回目の食事の量を増やして、後で食糧難になるとか。他にも、飯盒による自炊、潜水艦内での生活、海軍の戦艦のラムネ製造機…などを楽しく解説してくれる。
そして飯を食うシーン!
文句なく美味そうである。どのエピソードの食事シーンも素晴らしい。作中で描かれる食事を作る料理人も、食べる人間も、食事の醍醐味を味わえます。もちろん、この漫画の主役という「食事達」は本当においしそうの一言です。
本当においしそうに幸せそうに食事を楽しんでいる。
おいしいものをおいしく食べる事は、純粋な幸せだと思うんですよね。
食事を楽しむという事は幸せなんです。これは、戦時中に限らずに、今でもそうでしょう。毎日B級グルメばかり食べてますけど、それでもやっぱり幸せを感じます。
キャラがおいしいものをおいしく食べるシーンは、読者にもちょっとした幸せな気分を味あわせてくれる。これ飯漫画の醍醐味なり。『戦争めし』に限らず魚乃目三太先生の描く飯漫画は、食事を食べるという小さな幸せを読者にも届けてくれる。腹が減るけど胸がいっぱいになる。
何よりもストーリーがね。いいんだ。
1話「幻のカツ丼」は、分隊長が若いころに一口だけ食べたというカツ丼を再現する。オーストラリア軍の補給物資からパクったパンや卵や油や肉(正確にはハムだったが)を使って、カツ丼を作る。
「美味いなぁ…」の涙ながらに食うシーンに胸が熱くなる。
こんなグッとくるシーンの後の分隊全滅、そしてラストの展開は最高と断じるに些かの躊躇もないわ!もうね、目頭が熱くなるってものですよ。「幻のカツ丼」に限らず、こういうグッとくる温かい泣けるエピソードが目白押しである。「過去」の飯エピソードが「今」につながるのも胸熱なところ。
個人的に「満州のアレ(包み物)」と「収容所の焼きめし」が特にお気に入り。「満州のアレ」は、帰還兵が戦後に「満州のアレが食べたい」と、満州で食べた包み物が忘れず試行錯誤して再現する話。後に満州のアレが宇都宮の名物になる。「収容所の焼きめし」は米軍収容所でスパムチャーハンを通じて日米兵に友情のようなものが生まれる話。ラストは感動して泣いてしまう(いい意味で)。
ただ戦争は悲惨だとか、現代の飽食時代を批判するとかでなく、あくまで当時の食事を丁寧に暖かく描く。「食事達」が主役といえど、作るのも食うのも人間である。これ最高のヒューマンドラマでもあるよ!
5話「極寒のパイナップル」も素晴らしかった。
ムッシュ村上の実話を元のしたエピソードですが涙腺を刺激する。というか全エピソード最高なんだけどね!波瀾万丈な出会いや別れや死や再会が飯を通して紡がれるヒューマンドラマなり。
戦争漫画や飯漫画は数あれど、『戦争めし』はまた違った角度で描かれた名著です。
戦時中の飯を美味そうに感動的に人情的に食事を通して描かれる。読み応えのあるエピソードばかり。大半はフィクションだと思いますがリアリティが半端ない。相当取材したのであろう。丁寧に飯を食べる事は楽しいし嬉しいし幸せだってのが伝わってくる。すごく良い漫画であった。超お勧め!
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