『イムリ』(三宅乱丈)25巻を読みました。
もうね、この面白さは何事なんだと!
未読だと人生もったいないレベルで夢中になってしまいますわ。
「ルーン」と「マージ」、二つの星に暮らす、三つの異なる種族。
支配民族「カーマ」、奴隷民族「イコル」、そして原住民族「イムリ」。
四千年の時を超えた三種族を巻き込んだ戦争、世界の「明日」を決める戦いは、ついに最終局面へ。賢者・タムニャドとニコの「選択」は、デュルクの描いた「未来」に届くのか……。4千年にわたる戦争の果て、「明日」を託された、第25巻。
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『イムリ』25巻
戦争は終わった
146話【大地のイムリ】
24巻で決着がついた「イムリ」と「カーマ」の戦争。イムリの勝利ですが、この漫画の面白いところはやっぱり「勝ったぞー!」でめでたしめでたしではない奥の深さだよなあ。
これまでの「うおおおお!続きどうなんだー!」ってテンションMAXとはうって変わって静かながらしっかり引きとテーマを濃縮したのが25巻です。具体的には戦後処理にスポットがあたっております。
イムリはカーマに勝利しましたけど、あくまでも、もっと被害を拡大させる泥沼の全面戦争を回避するための手打ち。カーマの復興に協力する条件で和睦しました。カーマもこのままやり続けりゃ負けるからって、戦力も兵器も余裕ある状況で敗北を認めました。
どっちもまだまだ余力残ってるところで和平交渉を結んでいるので、トップ連中に比べると「は?」感が半端なく、両陣営とも導火線の火は消えてないように見える。
特にカーマ(特に呪師たち)は勝ってた戦争が引っくり返され、尚且、奴隷民族のイコルまで解放しろって条件なんだから、ここまで過ごして来た社会インフラを根底から覆されるわけで。賢者は歴代カーマ人であると正体を郡民(下層階級の人)にまでバラすとか言うので、レッドラインを超えてしまってる様子がめちゃ面白い。
戦後処理って壮大なテーマ
カーマの呪師連中にとっては、有利に勧めてたし勝ちは確定的だと思ってただけに寝耳に水状態。イムリもイムリで何でカーマの復興に協力しなきゃいけないんだとマジキレです。お互い、みんなが納得できる和平では決してない。
147話【新たな戦い】
郡民に賢者の秘密を語ることなかれ…呪師の領域を守りたまえ…これまでの呪師の献身を忘れることなかれ…
ここまで「水戸黄門の印籠」のごとく、「良い人」「聖者」「善人」で押し切ってきた賢者の汚れ無き行動でまわりも「ははー!」となってたシナリオで爆弾投下。呪師はいわゆる特権階級のようなものなので、この戦争の和睦条件は物事を根底から揺さぶられるようなものですしね。
賢者の目の前で抗議の自害をし出すのです。ここまでよく言えば光しか見てなかった、悪く言えばボンボンのようにキレイな偽善だけでまかり通ってた賢者にも衝撃の抗議です。
イムリ側でもこの和睦は納得できてないモノ多数で揉めまくり。民族間の対立である戦争から、内政の難しさが焦点になるのです。
和睦して「めでたしめでたし」でないのが『イムリ』の面白さよね。そこをヒューマンドラマ仕立てで緊迫してドラマチックに描写するから目が離せません。
蠢く政治的なアレコレ
148話【ラシューの実】
どうしてあんな約束をした!大勢イムリを殺した奴らを助けるだなんて、考えらだけでも胸がつぶさるようじゃ!
カーマと和睦してDISられるニコたち。当たり前だけど、さっきまで殺し合いしてたけど、ここからは協力しよねなんて普通にお互い納得できるわけがないわけで…。カーマもイムリもぶっこおすぞ!って勢いだったわけですしおすし。
この辺の政治的交渉と結んだ和平をみんなに納得させるための戦いが25巻のキモであり、めちゃくちゃ読ませてくれます。リアル社会に通じてること多数。それぞれのキャラの葛藤に共感すること無数です。
カーマの呪師の一部の企みなどはドキドキハラハラの連続でした。政治や外交ってのは「こうなりました」でみんなが従って解決するわけじゃない。細かなドラマがめちゃんこ面白い。
そんな中で、イムリとカーマが仲良くしてるケースや、ちょっと分かりあえてるドラマを描くのもうまいんだな。グッとくるし、ミステリー作品のようなストーリーラインで「政治」の難しさが最高に面白い。
思想のバランス感覚が半端ない
150話【新都市のイムリ】
普通に読むとイムリが善玉でカーマが悪玉って印象だったんだけど、決してそんなことはないって描くのもなかなかどうして。単純な正義だ悪いってだけでもないのも魅せるのが深いよな(語彙ぇ)。
個人的に、デュガロ呪大師がかなり熱い。まだ隠し事ある(それは読者に分かる)が、それは賢者は知らなくていいし、責任をかぶるとしたら自分だけだって決めてるのもお前そんなキャラだったのかよって感情が揺さぶられます。
まあ、デュガロ呪大師なので油断は禁物ですが。
まだ波乱はあるかも?
着々と完結に向けられてるかなって印象。
いやはやそれにしてもね。「政治」「外交」「戦争」なんてデリケートなテーマをガチで描いてて、『イムリ』…三宅乱丈先生のすさまじいところは政治的な思想が見えないバランス感覚かもな。
こういうリアル社会を風刺するかのような戦争とか外交とか内政をリアリティ溢れて描くと、絶対に作者の思想って透けて見えるもんじゃないですか。
ぶっちゃけ、田中芳樹先生とかさ、いわゆる「左」な思想(なんだと思う)。逆に「右」の思想バリバリなのが『ゲート』や『軍靴のバルツァー』でしょうか。
こういうのってどうしても作品を通して感じ取れちゃうんですよね。
少なくともわいは「パヨク思想」「ネトウヨ思想」って作品を通して感じちゃうこと多いかなあ。リアルな戦争や外交や政治にスポットを当ててる作品だと一目瞭然です。
あー、この作品(作者)の思想は右なのかとか左なのかとかね。この手のテーマだとかなり極端に寄ってるケースも多い(個人の意見です)。
そんでもってもう一方の思想的なアレコレは悪とか間違ってる風になるのが大多数じゃないでしょうか。当然、そんな読者に思想を感じ取らせても純粋に面白いんですけどね。
で、そこいくと『イムリ』(三宅乱丈)ってそういう右だ左だって二元論で感じ取れちゃう思想のようなものがほとんどないんですよね。少なくとも自分はその臭みは一切感じない。バランス感覚っていうの。これすごいよ。「正義の反対はもう一つの正義」を地でいってるんだもん。
三宅乱丈先生がどういう政治的立場か知らんけど、アレな右とか左の「臭み」を読者に感じさせずに、真正面から政治や外交や戦争をテーマにしてぐう面白い。人間っていいな!?そんな事を左右の臭みなしで、殺し合いの先を提示してくれる(かも)。
完結は近いか
まだ波乱が起きそうですけど、もうすぐ完結するのかなって感じ。
3民族融和に向かって着実に確実に近づいていってるかな。
まあ、その「めでたしめでたし」の妥協ラインがどこかってリアルがありますけど。壮大な問題のマクロなテーマなのに、個人のミクロのテーマで問題提起して「どうすればいいんだろう?」「そうすべきかな?」ってのが芸術的だ。
ストーリーもテーマも最高傑作なので、終わりまで付き合いたいね。本当に面白い漫画というのは『イムリ』なんだな。26巻も楽しみです。まる。
コメント
わかるわー!って唸りながら読みました。
思わずコメントもします。
この面白さただごとじゃないですよね。
新刊出てるー!ってなった時の嬉しさたるや!
一年待ちペースだけど全然待てるし楽しみ。
この世紀の大傑作もっと知られて欲しい。マジで。
そんで読んだ人としゃべりたい。
アイルランド独立戦争の和平の調印者がイギリス側代表に言った
「あんたは国に帰ったら非難されるか知らんけど、俺は明日から仲間に命狙われるわ。」
という話思い出した。
面白く拝見しました。
早く26巻に出てほしい、続きが読みたい、あの冷凍されてた人はどうなるのか、気になることばかりです。
ただ一つ知りたいのは、3千年前のイムリ・イコルの対立とそれによる大戦争。それまではイコルがカーマを使っていたわけでしょう?今は対カーマで仲良しムードいっぱいだけど、もともとを考えると・・ そのあたりもきちっと描いてくださるとうれしいな、そうじゃないと何かのどにひっかかってる気がしてしまいます。
あとデュルクはもうあのままなのか…