短編集『私と私』(佐原ミズ)を読了。
いい話だったなー!けっこう自分好みでした。全ての短編の設定は暗いというか重いのですが、なんのかんので優しい「お話し」の集大成って感じでしょうか。あ、いい意味で意識高い系です。
「要らないと思っていた私の世界は、美しく穏やかだ…」美和と実和。同じ名前で正反対―。“もうひとりの自分”に出会った時、少女たちは本当の自分を知る…(「私と私」)。他三篇を収録。切なさと優しさが心に刺さる、珠玉の短篇集―。
<試し読みできます>
収録作は「箱庭の虜」「ゆびきり姫」「私と私」(前後半)の3(4)本とエピローグ1本。実質「箱庭の虜」「私と私」の2つの長編読み切り作品がメインかな。心に染み渡るえー話やった。
どっちもすごくキツイ重い境遇でも救いがあって良い読了感でした。人によっては荒唐無稽なファンタジーに感じるかもしれませんが、ハートに響く幸福感があります。汚れたおっさんの心が浄化されるたぞい。
短編集『私と私』
「箱庭の虜」
主人公は高校受験失敗以来10年以上も引きこもってるごくつぶしニート。エリート一家のようで自分だけ居場所がありません。日々、家の前の駐輪場で女子高生のサドルを盗んでは、おかずに使っている生活をしています。
…痛っ!
サドルの匂いをおかずにするってかなりレベル高いな!
そんな主人公が、今日も今日とて女子高生のサドルを盗もうとしてら突如可愛い女子高生から声をかけられます。「好きです!付き合って下さい!」と。って、えぇー!
いきなり告白する可愛い子ちゃん。意味が分かりませんね。読者も主人公もポカーンとする中、ヒロインは毎日主人公の元へ通うようになり、一緒に過ごすようになります。いきなり好きと告ってそんな凍り付いた心が段々と溶かしていきます。
いわゆる「心を閉ざしてる人」を開いてあげる系作品ですね。
心の傷は段々と回復していってる
俺は治るかもしれない
普通の生活に戻れるかもしれない…
創〇学会の宣伝広告漫画もビックリの生きる喜びを見出す主人公くん。
すべては、謎だらけでも受け入れて告ってくれた彼女のおかげです。心を閉ざした男が、ヒロインのおかげで傷を癒していく。
美少女ゲームなら逆パターンでよく見るシチュエーションでしょう。段々と心を開いていく様は完全にボーイミーツガールのそれなんですが、実はヒロインには理由があってニートくんに近づいたのでした。そこからの急転直下の真実にビックリですね。
なんのかんのでエピローグは素直に感動です!
マジのガチでいい話だったなー!「その後…」があるからこその本編の紆余曲折でしたわ。最後の最後に見せた彼女の表情よ。これ至高なり。ついに訪れた「また明日」はグッとくるものがあります。
表題作「私と私」
「私と私」
表題作の「私と私」はダブル主人公。
同姓同名の「田中美和」で私と私か。かたやルックスは不細工の部類で、いつもお絵かきをしててクラスメイトからも浮いてる痛い子。かたや美少女で運動神経抜群でクラスでも一目置かれる超絶美少女…しかしながら、昨今色々と問題になっている貧困家庭を地でいく少女。
ブス(と自覚してる方の)田中美和は同じ名前なのに、なんでもできてキレイで自分にも優しく接してくれる美人(の見た目)田中美和に憧れを持つようになるも、辛辣な言葉を投げかけられて、もう1人のリアルを目撃し、気づくのです。
自分は恵まれていたのではないだろうか…と。
というのも、ルックスが不細工系の田中美和は家族が大っ嫌いだから。両親に対して色々と「うるせー!」「うぜー!」「イライラする」「要らねー!」と本気で思ってたから。
両親が大っ嫌いです
分かります。分かりますよー!
自分も10代の頃なんて、親がウザイだけの存在でしたからね。本当に要らねーと思ってましたし。イライラしっぱなしでした。小っちゃい方の田中美和の気持ちが痛いぐらいに共感できる。
まあ、しかしこれが若さ故のイキってるだけだったと気付けるのは、ある程度の年齢を重ねたからでしょう。10代で気づいた田中美和は凄いし真理やね。人生の教科書にしたいレベルで至言です。
人の不幸見ないと、自分の幸福も分からなかったのか私は…
まさに青い鳥ですね。
おだやかな日々なんて送れたことねーと自分の世界で思ってたのに、実は生まれた時からずーっとおだやかな毎日を送っていたと気付けたのである。前半は青い鳥はもとからあった的な田中美和の視点のエピソード。
一転して、美少女の方の田中美和視点で描かれた後半はきっつー!されどもう一人の自分のおかげで…いや、そも自分がもう一人の自分を救ってたのか?(鶏が先か、卵が先か)。
お互いが同じ名前でも全く別人だけど鏡のようにお互いが羨ましがったもう一人の自分に向けてフルネームで叫んでエールを送る姿はグッとくるものがあります。
田中美和!!
2人の田中美和の物語はとてもとても良い話でした。
前半・後半ともに特徴的なラストだった。まるで高橋留美子的(らんまやうる星)なラストなんですわ。この余韻は素晴らしい!それは僕らの前から消えるようで未来へ走って行ってるから胸熱ですよ。
前々作『鉄楽レトラ(AA)』のキャッチコピー風に言えば「人の人生を 変えてしまうほどの人間てどんな奴だ?」の答えは「箱庭の虜」「私と私」のような出会いなんだろうなって。おまけのエピローグ含めて最高の読了感に浸れました。まる。
コメント
ヤマカムさんのレビュー見て買いました!最近出た雨野さやかさんの短編二作と並ぶぐらい面白かったです。いいものをありがとうございます。
やまかむさんがいいたいこと全部言ってくれる。