『えりちゃんちはふつう』(藤生)読了。
なんだろう泣けてきた。読んでる最中は胸をキューっと締め付けてるのに。悲しい意味だけでなく良い意味でもグッとくるんだよなぁ。
「マザーファッカーズ」「ひみつのおねえちゃん」でお馴染みのエッセイコミックの名手が贈る「楽園」web増刊発表作で構成する自叙伝的作品集。切なくて愛しい、世界中の「かつての貴方」へ送ります。
※「マンガPark」なら白泉社系作品無料で読めます。
『えりちゃんちはふつう』
藤生先生の実体験を元にしたエピソードのフィクション作品なり。
ようするに『ちびまる子ちゃん』みたいなものなのですが、あんな面白おかしく笑えるものでもキラキラした子供時代でもない。ちょっと切なく痛い子供時代の青春の蹉跌を描いたものなり。心が痛くなる『ちびまる子ちゃん』である。
ちょっと貧乏なえいちゃんの家
「ケーキ」
幼なじみのゆきちゃんの家はお金持ち。えりちゃんの家はけっこうな貧乏で、ケーキなんてほとんど食べないのにゆきちゃんの家でそれが「ふつう」。お金持ちだねぇって言えば「ふつう」と返された心境がなんともいえません。
ゆきちゃんちが「ふつう」なのか
あたしのうちが「ふつう」なのか
えりちゃんの家は貧乏だってことが子供視点で描かれる。
もっとシャレにならない貧乏な家庭もあるだろうが、その生々しい実体験が刺さりまくる。「ふつう」って何だよと。よその家と比べてのリアルな貧乏エピソード。ケーキの話を筆頭に、みじめな気持ちになるえりちゃんの心情が痛くて切なくて泣けてくる。
形容しがたい理不尽さ
「ラーメン係」
えりちゃんの家の貧乏エピソードに、友達と疎遠になることや、兄や姉からのジャイアニズム、父親と母親からの兄弟で違う格差を受ける…と、えりちゃんが受けた理不尽とも言えるアレコレの話がかわいらしい絵柄で綴られるエッセイ。
「劣等感」と「理不尽さ」のオンパレードで胸が痛くなりまくる。大小あろうが、誰にだって理不尽な体験や劣等感を覚えることや自己嫌悪に陥ることはあるので、昔の古傷や経験をフラッシュバックさせて鬱屈した気分になれます(褒めてます)。
いや、昔の幼少期でなくとも憎悪や劣等感のカタマリである自分は現在進行で謎の共感を覚える。自伝的エッセイなのに、「昔は大変だったけどそのおかげで今は成功しました」的な自慢エッセイでもないので、なおたちが悪いです(賛辞)。
「ラーメン係」では母親に何でもいいから袋ラーメン買ってきてと頼まれて塩ラーメン買ってくれば、醤油か味噌がよかったとDISられる始末である。なんて理不尽なんだ。こんな軽々はディティールが違ったって誰でも分かりみあるでしょう。
でも、なんか「仕方ないよね」って受け止めてしまってるえりちゃんに、より共感してムンな気持ちになること多数。どこにこの巨大感情ぶつけんだって行き場がない気分になること無数。もちろん、誉め言葉です。
「ふつう」ってなんだよ
14歳
極論をいえば、えるちゃんは「ふつう」ではない。家は貧乏だったし、姉兄からのジャイアニズムを受けてたし、両親からもあまりかわいがってもらったわけではない。かつての友人と疎遠になる様や、普通ではない不登校。
『えりちゃんちはふつう』ってどこが普通やねん!って突っ込みたくなるタイトルである。「えりちゃんはふつうでない」ならシックリくるんですけどね。
ただ、自分が受けた理不尽さや劣等感で、父と母に恨みつらみを爆発させるわけでもないのが『えりちゃんちはふつう』のキモなのかもしれんな。だって、親に対して「てめー!恨んでるぞ!」「ボケー!」「ムカツクんじゃー!」みたいな話でも決して無い。
「ふつう」でない経験だが「ふつう」なんだよね。
オマケ漫画や「瑕疵」(傷とか欠点)、で現在の親とのやり取りや関係や心境が語られているのですが、姉と兄と両親の顛末とえりちゃんの両親の今を見るとねぇ…。細かいことまでは語られないがなんともまぁ…。どんな紆余曲折があったのだ!姉と兄と父と母!
で、えりちゃんはなんだかんだで暖かさみたいなのがあったわけです。
本編でも自分が受けた理不尽さ一辺倒でもないしね。
極論を言えば、えりちゃんはふつうだった(と思う)。
少なくとも今は「ふつう」に見えましたね。
その「ふつう」の価値観は難しいところですけどね。家族に対しては今のえりちゃんは「ふつう」に接しているように見えました。普通ってなんだろ?そんな哲学すら投げかけたね。劣等感や理不尽や自己嫌悪があるすべての人の心に刺さるエピソードの数々と「ふつう」。泣いちゃったよ。まる。
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コメント
めっちゃ気になるけど落ち込んでるときに読んでいいものか…
「ひみつのおねえちゃん」好きだったから絶対買う。ヤマカムさんのおかげで新作出ているのを知りました。ありがとうございます。
子供を追い詰める親系は読めないわ・・・
ヤマカムさんのレビューを読んで買いました。
いやぁ、えりちゃんほどの理不尽さには遭わなかった自分ですが、一つ一つのエピソードが実に胸に刺さりますね・・・。
年賀状のエピソード以降はページをめくるのがツラくて一気には読めなかったです。
それだけに、ラストのエピソードはほんの少しだけ心がほっこりして救われた感がありましたね。
きっと様々な出来事や葛藤があって、御両親や旧友を受け入れる心を持つ事ができた作者さん、これからも頑張って頂きたいです。
タイトル、えりちゃん「ち」では?
なんつーか・・・表紙の家の玄関がウチとそっくりというかほぼまんまなんですが・・・
なんか毒親系は辛くて読めないんだよな・・・
今更ですが、この漫画を買いました
別件で大型書店に寄った時、偶然積んであるのを目にして、ヤマカムさんの感想が気になっていたので衝動的に買いました
案の定、自分の胸をえぐられるような気分になりました
何故、自らの古傷に塩を塗り込むような書物に手を伸ばしてしまうのか、自分でも謎です