『破滅の恋人』(郷本)読了。空気感が素晴らしい百合(と言っていいのか)作品です。表現がとにかくすごかった。
その女は幽霊か魔女か。秘密基地のような幽霊屋敷に住む幽霊ではなく優麗な美女と少女との邂逅。謎多き美女と、彼女に引き寄せられてゆく少女の物語、待望の第1巻。
どんな漫画?
『破滅の恋人』は真面目な少女・加賀見ありすが、廃墟と思われた家に住む怪しげな女性(魔女のようなおねえさん)に出会い徐々に惹かれていく作品です。ジャンルとしては百合でいいのかな。
そして、なんだかんだで空き家に通うようになるありす。不思議で大人な女性が気になったり(まだ恋ではないと思われる)、2人の周辺の人間模様が挟まります。狭い世界の中で人間関係が広がっていく。
「うおおおお!」って読者の感情を揺さぶられる作品ではなく淡々とした物語です。しっとり染み渡るありすの感情表現が良き。
心象描写など表現が独特
心象描写が独特なのも特徴です。アリスの心模様を叙述的に描き言葉になってないけど気持ちが伝わってくる。されど不思議に描いていきます。
絵本・童話をモチーフにしており、「不思議の国のアリス」「白雪姫」「ヘンゼルとグレーテル」「赤ずきん」等に例えられた内面の心象世界を形にしてます。
ただ魔女さんのおねえさんは絵本・童話の魔女に見立ててるけど決して原作通りの悪い魔女になっていない。
おねえさんの家を「ヘンゼルとグレーテル」の魔女の住処であるお菓子の家に見立てつつも魔女を救ったり、赤ずきん状態で魔女とお茶したり…。ありすの心象世界では訝しみながらも悪役でない魔女さんとなってるのもミソ。
ありすの思ってること想像してる事だけでなく内面の感情を『Fate』の固有結界レベルで具現化させる手管も見事。4話の森で迷う心象描写と生い茂る庭の背景描写が重なるのは上手いなぁと思いました。
徐々に世界が広がる
メイン登場人物は主人公の加賀見ありすと不思議なおねえさん(魔女さん)の2人ですが、それぞれの友人・知り合いの話も間に挟まる。
ありすのクラスメイトのまりあ、おねえさんの親戚の関西弁の兄ちゃんや女友達を主人公に据えたエピソードが群像劇となってる。そのお陰で世界観や人間関係が深まる。
ありすとおねえさんだけで話を転がしてたらおそらく描かれる事はないであろう廃墟っぽい家についてなどがボンヤリと見えてくるのも面白いところです。
ミステリアスのおねえさん
この漫画は前述したように群青劇で描かれております。ありすの視点、まりあの視点、おねえさんの友達や親戚の視点。…しかし不思議なおねえさんの視点では描かれてない。
だから心理描写もモノローグも一切無い。「誰かから見たおねえさん」という形になっています。だからおねえさんは断片的にしか分からない。
なんたって、ありすが絡んでないおねえさん関係のエピソードでも読者に名前が分からないんだもん。「魔女さん」「暴力女」「テメー」とか呼ばれてるけど名前も不明?ミステリアスすぎるぜ。
サブエピソード含んでちゃんとおねえさんの実像は見えるんだけど、何を考えてるか分からないところが面白いところでもある。
あくまで観察対象なんだよね。一挙手一投足見つめるありすが可愛くもある。おねえさんの心情を見せぬ代わりに、言葉から仕草から表情から爪先…それこそ息づかいまで、綿密にありすが見ている。惹かれていってるのも分かる。
ありすが可愛い
心象風景、「間」の取り方、改行に含みがあるコマ割り…と演出が特徴だけど、それらはいわば変化球のようなもの。ちゃんと剛速球ストレートもある。
3話で描かれたおねえさんのマニキュアを思い出して頬を染めながら「?」となるシーンに思わずニッコリです。まだまだ恋と呼べるものではないですが最高やね。
ありすはあまり感情を表に出す子じゃないだけに、お姉さんのことばかり考えてからの頬染めは破壊力抜群でした。
まだまだはじまったばかりですしタイトルが不吉なんですが先が楽しみです。心象風景や間の取り方などの「表現」がすごい不思議な百合。キャラの細やかな仕草や行動も何度も読み返したくなります。
コメント
某Aブログで本作が紹介されて興味を持ち、応援も込めて買いました(電子版)
今の新刊は、発売1週間の売れ行きで連載継続か終了かが決まると聞きますので
確かに独特の雰囲気を漂わせているのですが、果たして人気が出るか(続くか)どうか……成功を祈っております
単純明快な百合作品ではないんですね
でもヤマカムさんのお勧めなら良作と見て良さそう