『不条理なあたし達』(竹宮ジン)を読了(今さら)。すっごい良かった。
表題作の「不条理なあたし達」全12話とアフター、あと短編読み切り「tragic love film」が収録。ちょいダークシリアス百合なり(なんのこっちゃ)。
※「マンガPark」なら白泉社系作品無料で読めます。
百合漫画家の竹宮ジン先生はキャキャウフフ系のシュガーたっぷりデザートのような作品からノンシュガーなブラックコーヒーのような作品まで多彩っすなぁ。個人的には後者の刺々しい黒さ全開なのが好きだったりします。
またギャップカップルというか凸凹のコンビが心の琴線に触れるんですよね。特に「サバサバした格好良い女性と犬チックな後輩」がツボであり、今作『不条理なあたし達』はまさにそれで(+後輩もなかなかに黒さを見せる)、大人の百合として非常に楽しめました。
ガールズラブの第一人者による「楽園」web増刊で好評を博した表題シリーズを1冊にまとめたファン待望の本格的社会人百合長編。
試し読みは読切と1話だけか。個人的には2話まで試し読みできたほうがええんじゃないかなって思うけど。まあ、1話だけでも山中さんが畜生系クールビューティーであることが分かりますが…。
仕事ができるサバサバ系の先輩・山中とゆるふわ系の後輩種田。
お互いが徐々に惹かれていくものの一筋縄ではいかない社会人百合物語なり。
不条理なあたし達
山中さん
まず山中さんのキャラが良いんですよね。本当にいい性格してます。ナチュラルに人を見下す表情がたまらんでござるよ。なんでも出来る女性である一方で、一生懸命にならない性格で、色恋沙汰も完全に冷めています。
色んな女性に手を出し(出される)ものの、本気にはならず達観しています。よく「優しくない」「他人に無関心」とか言われるような性格でクールさがキモの女性。そんな彼女が、新入社員の種田の教育係となって職場の同僚となります。
前半は山中さん視点から見る種田とのやり取りがメイン。
山中さん視点で見ると種田もなかなかどうして。いい性格しているように見える。山中さんがレズビアンの集うバーに行くのを目撃したことで、飲みに誘ったらそのバーへ行ったりとか。笑顔にに黒さがあってゾクゾクしちゃう。
種田
「手のかからない」良い子と思っていたら「とんだ問題児じゃない」と面白くなる予感を感じる山中さん。
前半は山中さんの視点で描かれるので、何事も動じない冷めたキャラではあるものの後輩・種田にクールさを崩されていく様子が楽しめます。山中さん畜生系クールビューティーなのに種田の事ばっか考えてちょっと熱くなってるのも良い感じ。
山中さんを取り巻く愛憎と、種田に振り回されてるギャップが面白いです。
種田相手に駆け引きしてるモノローグがクールなのにホットになってるよ!
で、中盤はどっちの視点にも立たず、2人の近すぎず遠すぎの絶妙な距離感で何気なく過ぎていく日常を描くのです。山中さんの過去など掘り下げつつね。なんとなーくお互いがお互い惹かれ合ってるというか気になる存在になっていくのは分かります。
あー、この付かず離れずの関係たまらんぞ。
そして、本性をもとい本領を発揮するのが後半である。
物語が岐路に差し掛かると突如、谷底へ叩き落とすかのようなエグさを出してきます。後輩の種田視点で描かれるわけですが、これがもう最高なんです。痛さを存分に味わい、キャラの内面をえぐってくるような描写にただただ圧倒されるのみ。
後半の種田視点
人の気も知らないで…
とっても痛いぞぉ…。
後半の種田視点では山中さんが好きだったと気付くわけですが、それが切なく哀しくて痛くて界王様が目を背けてしまうぐらい「見ちゃおれん」状態なのです。恋してると自覚したけど、状況が状況なだけにモノローグが痛々しすぎる。
その心情がいちいち刺さる。本当に竹宮ジン先生の描く切ない恋心は凄まじいものがありますわ。心の痛みとしてえぐり取ってきます。恋愛とは甘く心地よく浸るものではなく、苦悩であり、面倒であり、息苦しいものであるというのが種田を通してビシビシ伝わってくる。綺麗事だけでない容赦の無さ。
山中さんの畜生っぷりと、2人のお互いが気になってる関係を楽しんでいたら、千尋の谷に突き落としてくるものの、そこから這い上がってくれば真のスイーツが待っています。痛みのその先へ。見事に「苦さ」と「甘さ」がブレンドしておりますな。苦味と甘味のバランスがコクのある味わいになっておる。上手くて美味い。
タイトル通り「不条理」であるこの2人の恋愛劇。基本的にどっちかの視点に立って描かれているため、その時その時で相手が何を考えてるか分からない仕様となっており、それが高度な恋愛の駆け引きとなっております。これ前半部分を種田視点で、後半部分を山中さん視点でも見たいぐらい上手く相手の本心隠してるよなぁ。面白かったです。まる。
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