冨樫義博先生の最高傑作といえばもちろん『てんで性悪キューピッド』に決まっていますが、ファンからもカルト的な人気がある『レベルE』も素晴らしき名作であります。
バトル漫画ではありませんし、『ハンター×ハンター』の選挙編や王位継承編に通じる文字量がコナン並のエピソードしかありませんので人は選びますが…。これが読めば読む程スルメのように味わい深くて個人的に大好きだったりします。冨樫先生の三大偉業は『てんで性悪』『レベルE』『ハンター』だと思ってます。
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連載中の嫌な経験を思い出すので過去作はあまり好きじゃない冨樫先生でも文庫版『レベルE』の後書きでは、以下のようにコメントしています。
最初の連載からこの頃までは(レベルE)、作品と自分の生活がほぼイコールで同調していたので、読むと古い日記を見返す様なむずかゆい感じになる。でも他の作品に比べて居心地はそんなに悪くない。比較的好き勝手描けたからだと思う。比較的、だが。あくまで。
その後に当時を思い出してイライラしてきたとコメントしつつ、『レベルE』は過去作の中で、比較的ではあるものの好き勝手に描けたので居心地はそんなに悪くないそうです。なるほど。という事は今のレベルEテイスト全開な『ハンター×ハンター』は大分好き勝手描いていることが伺えます。
そしてハンターの元ネタのようなものが沢山あるのが『レベルE』!
ハンターに通じる『レベルE』
『レベルE』8話 The crying game
『ハンター×ハンター』には『レベルE』で使われたネタをリライト、再構築したようなエピソードがけっこうあります。
顕著なのが『レベルE』では少年5人がバカ王子に改造された変身アイテムをつけられて、実際にリアルRPGをプレイするって話です。ゲーム大好きな冨樫先生は、おそらく当時スーファミ版「RPGツクール」にハマっていたのではないかと伺えます(ゲームスイッチなどの用語から)。
実物世界でRPGゲームをやる!
今では異世界に飛ばされる系の作品が流行っていますが冨樫先生は走りと言っても過言ではない。まあ、冨樫作品は異世界はゲームと割り切ってるのがツボですが。
で、実際にRPGゲームをやっちゃうってうのは『ハンター×ハンター』の「グリードアイランド編」でも使われていました。
グリードアイランド編
アイツはゲームのキャラクター。
要するに特定の質問にしか答えられないキャラなんだよ。それ以外の質問や会話には「〇△?何だそりゃ」としか返答しないんだ。
『レベルE』の「ハマジリの町にようこそ!」しか喋れないキャラ同様、リアルにRPGゲームの中に入ったらどうなるかの風刺が効いていました。『レベルE』はスーパーファミンコン、『ハンター×ハンター』のGI編やってた頃はプレイステーションが主流なハードだったなぁ。
そういえば、「ジャンプGIGA 2016 vol.2 」に収録されている岸本先生と対談では以下のようなことを述べていました。
・最初のページの四角の中に、世界説明の文章がつまってるやつ。それ僕が大好きなやつ。(編集に注意を受けた事があるそうです)
・自分の過ごしてきた、何歳ぐらいの世界をもとにするかっていう感じで、どこか現実世界とリンクさせておく。
・『ハンター』を始めたときっていうのは、実は自分の小~中学生時代をベースに描いていたんですが、連載を続けるうちに今の自分とリンクしていって、携帯出したりとか、次はスマホを出したりとか。だからもう基本的に無理しない感じです。
・危険なのは「そういう(中世ヨーロッパ風)ファンタジー世界のゲームを好きな人」が、同じ世界を漫画で表現しようとすることです。ゲーム感覚抜け出せない人がファンタジー漫画でリアリティ出すのって難しい。
・僕がゲームやるときって、システムが面白いかどうかっていうポイントで入っていくんで、楽しみ方が違うんですよね。
こうして見ると、『レベルE』同様にハンターの「グリードアイランド編」って本当に好き勝手に描いたんだなと思いますね。
マクバク族とキメラアント編
マクバク族 / キメラアントの女王
『ハンター×ハンター』のキメラアント編も、『レベルE』のマクバク族エピソードを再構築した設定と思われます。恐怖の外来種、女王が巨大な虫であり、一世代下は比較的人間に近く、子孫を残すために捕食する(マクバク族は結果として捕食した格好になる)など。
キメラアント編がはじまり初期設定の説明を読んでると、「お!?この設定はレベルEのマクバク族に近いな!」なんて思った読者はけっこういたのではないでしょうか。
何度も言うけど『ハンター×ハンター』では前作『レベルE』から継承したような設定やネタが満載であります。ヨークシン編も人魚売りのエピソードに通じてるし。さらに『レベルE』っぽくなっているのが「選挙編」と今やってる「王位継承編」でしょう。
今やってる「王位継承編」
王位継承戦をする王子たち
現在作中でやってるカキン帝国の王位継承編は、とにかく登場人物が多い。14人の王子たちに加えて王のナスビから、王子たちの母親や警護兵など…。過去最多の登場人物ではないでしょうか。
「ジャンプGIGA」の岸本先生と対談ではこの王位継承編を以下のようにおっしゃっていました。
・(物語は基本「勘」で描く)今やってるシリーズ、これ以上はヤバイヤバイって焦りながらキャラを増やしていますね。これも勘です(笑)。
・自分の作ったマニュアルが頼れる、頼れないの話でなく、結末の見えない方向で話を進めたいんです。
・だから今回のシリーズはシンプルに、ものすごく人数を増やしたらどうなるんだろうってのを、とにかく極端にやってみた。
・「話ですごい人数を出した」っていう人は、尾田先生もそうだけど、今までいるんですよね。それを意識しながらあえてやって、破綻しなかったらおもしろいなと。
このシリーズは「勘」で描いてる、結末見えない方向で登場キャラを極端に増やして破綻しなかったらおもしろいって…。おいおい、まさか「王位継承編」は作者すら誰が勝ち残るか考えてないんじゃないだろうな!岸本先生との対談を読むとそんな気がしてくる。
とはいえ、ここで言う「勘」ってのはあくまでも冨樫先生の経験則によるものです(「勘」というワードも34巻の解説で使ってます)。むしろ冨樫先生のデータで蓄積されたものであって、世間一般でいうところの「勘」ではありません。
冨樫先生の「勘」
・じゃあその「勘」を作った土台って何だろうという話になるんですけど。結局は漫画にしろ小説にしろ「読書量」という話で、名作も駄作もたくさん読んだからこそ、既出アイデアのアレンジや、逆張りもできるので、選択肢が増やせる。
・(福原愛選手のメダルを狙うには3万時間という話を引き合いに)自分もそれくらい読んでて、作家としての分析も一応やってるつもりで、そうした読書経験というものを下地にした上での…「勘」ですね。
「勘」というよりもデータに裏打ちされたものですね。
そうなると、やはり冨樫イズム満載だった『レベルE』に通じてくるのではないかなって勝手に思っちゃいます。ハンター自体が、冨樫先生の経験則の塊『レベルE』をよりブラッシュアップし強化リメイクした感じなのでね。
「王位継承編」における『レベルE』
高校野球存在意識編
あくまで個人の意見ですが、今やっている「王位継承編」は『レベルE』の「高校野球存在意識編」に通じているのかなって勝手に思っています。もちろん『レベルE』自体に王位継承を扱ったネタはありましたが、あれはバカ王子とルナ王女のバカし合いの読み合いで「選挙編」に近いかなと。
「高校野球存在意識編」は地区大会の決勝戦へ向かうバスの途中で、部員のレギュラーメンバーの誰かの存在意識(不格好な甲子園)に閉じ込められてしまい、一体誰の存在意識の中なのかってエピソードでした。
本編では明確に誰が犯人だったかが描かれませんでしたけど、ちゃんと読むと誰の存在意識に閉じ込められたのか分かるように描かれています。
犯人は予想外の人物
如月高校野球部はポジション通りの背番号で「①投手、江尻」「②捕手、倉本」「③一塁、所沢」「④二塁、佐藤」「⑤三塁、金光」「⑥遊撃、寺門」「⑦左翼、筒井」「⑧中堅、野村」「⑨右翼、岩田(キャプテン)」となっております。
犯人だけは閉じこめられず現実世界で走って球場へ向かう描写があり、日焼けしてたので色白の「⑤三塁、金光」ではない。また存在意識の甲子園では愛媛の松川商業が出てきて、去年遠征試合でぼろ敗けし、犯人は甲子園で松川商業と再戦したいという意識の具現化であり去年を知らない1年生の「⑧中堅、野村」も犯人じゃない。
また、クラフトたちの会話「筒井くん達がバスごと戻って来ても」「筒井くん達を現実に戻す方法」と言ってるので、筒井も現実世界から消えたのは明らかなので「⑦左翼、筒井」も違う。
で、現実世界に戻った部員の描写。
現実へ戻って…
犯人「ところで何で、お前ら試合前からユニホーム汚れてんだよ」
部員「皆で野球やってる夢見たんだよ」
犯人「(まさか…な)」
という会話から、犯人も夢は見てた(?)ようですが犯人だけはユニホームが存在意識の試合で汚れなかったのである(犯人だけは現実世界にいたので)。よって現実世界に戻ってからユニホームが汚れている描写が確認できる「①投手、江尻」「②捕手、倉本」「③一塁、所沢」「④二塁、佐藤」「⑨右翼、岩田」も犯人じゃない。
つまり、残った「⑥遊撃、寺門」が存在意識に部員を閉じ込めた犯人となるわけです。
なんてスゴイ完成された犯人当てクイズなんだって気もしますが、予想外すぎる意外な人物が当たりだったわけですよ。
何が言いたいのかっつーと、ハンターの「王位継承編」も予想外の意外な人物が勝ち残るのではなかなと。ズバリ勝ち残るのはモモゼちゃんだと見ています。ニヤリ。
モモゼちゃん
第1王子上位ベンジャミンと第4王子ツェリードニヒは本命すぎる。上位王子の戦いとか言われてたので、むしろ逆に上位王子は無いかなって。クラピカが護衛する第14王子ワブルも「っぽい」ので無し。むしろ残った下位王子が勝つのではないかと思ってます。
で、本命はモモゼちゃん!はらたいらさんに3000点ですよ!根拠ですか?「勘」です。もっといえば可愛いからです(どん)!
HUNTER×HUNTER モノクロ版 34 (ジャンプコミックスDIGITAL)
集英社 (2017-06-26)
コメント
ツェリードニヒの念獣も凄くレベルEっぽい雰囲気でした
食人の話(人が好きなのに食べてしまう)は、パリストンの性癖に近い気がします。
とがしさん、全体的に蟲が好きですよね。
相変わらず、最後のソレ言いたかっただけ感がすばらしい
あ
モモゼ
あ
ハジマリの町ではなくてハマジリの町ね
フラグ立てるとは…
14の王子以外の霊獣を有している人物が王になるで
念能力者でも霊獣が見えたり見えなかったりする面倒くさい設定で
書いてるのは何でだと思う?15人目の王子の存在を読者に隠す為やで
え?ナスビ王が妊娠を!?
できらぁ
>冨樫義博先生の最高傑作といえばもちろん『てんで性悪キューピッド』に決まっています
作者本人が完全に黒歴史認定してるのに……やめたげて
モモゼが仮に死んだらここの管理人はどうなってしまうのか…
最後のモモゼちゃんに収束する感じ、予想できてたけどヤマカムさんらしくて好きです。
作者的に人気は悪!で殺されそう
[…] ■『ハンター×ハンター』がもっと面白くなる『レベルE』! | ヤマカム […]
こんなん草生えますよ
見事な逆神ぷりですね。
ヤマカムさん
御愁傷様でした
一番最初の犠牲者とはねぇ
モモゼの王の器等の描写あったから、結構あとまで残ると思っていたけど
他の漫画と違い、予想の斜め上を行くな~
つーかキャッチャー倉本の台詞「つーかゲイですから」って以前は「つーかホモですから」だった気がするんだけど何で修正したんだこれ
“存在意識” -> ×
“潜在意識” -> ○