家族ごっこの始まり。
『スズキさんはただ静かに暮らしたい』というタイトルがフェイクだよね。いやフェイクじゃないけど狙いすぎだよね。あからさまにラノベちっくすぎるんですけど。これじゃハートフルなラブコメディが満載と勘違いしちゃうじゃないですか(しません)。まあ、ハートフルっちゃハートフルなんだけどさ。とりあえず、1話が公式サイトで読めるのでまずは読んでみて下さい。
<まずは1話を読むべし>
・『スズキさんはただ静かに暮らしたい』(コミックゼノン公式サイト)
一人息子の仁輔を女手ひとつで育てる仁美。小さな家族は都会のアパートで静かに暮らしていた。だが、隣に住んでいたのは…?温もりを知らない女殺し屋と孤独な男の子。ふたつの寂しさが寄り添いながら走りだす、小さな家族ごっこ!
ビックリの1話目
「なんじゃこりゃー!」である。
1話を読んだだけじゃサスペンス全開すぎてよう分からないと思うので、プラスで補足すると、1年前に起きた「5億円事件」に、仁輔と母親の一家が関係あるらしく追手から逃げる生活をしており、1話でついに見つかった。そこへ隣人のスズキさんが巻き込まれてしまい、スズキさんと仁輔は2人で逃避行生活を始める…という作品。
始まる逃亡生活
サスペンス漫画に見せかけて全然別ものである
設定は、スズキさんが隣人の事件に巻き込まれちゃう系。ぶっちゃければ映画『レオン』の男女を逆にした感じ。あれがおっさんと少女だったのに比べれば、『スズキさんはただ静かに暮らしたい』はお姉さんと少年だけど。『レオン』の原型といわれる『グロリア』のおばさんと少年に近いか。でも、その味付けは独特です。ホッコリです。
基本的には巻き込まれちゃう型で事件の真相は何か、スズキさんの正体が謎すぎるという2つのサスペンスが用意されている。とはいえ、1巻読んだだけで大体の大筋はほとんど予想できる。テンプレというか、「えーっ!?」という驚きやドンデン返しは、多分無いでしょう。事件の真相も日本語が理解できればおおよそ把握できるでしょう。「ドキドキする謎解き」や「ジリジリする焦燥感」といったサスペンスの醍醐味は無い(と思う)。スズキさんは一体何者かというのは気になりますが。
じゃあ面白く無いかといえば、そんな事無い。凄く面白い。めちゃくちゃ好きです。私の心の琴線に触れる。サスペンスとしてでなく擬似家族ものとしてである。
スズキさんと仁輔、2人は親子?
冷酷な女殺し屋スズキさんが、仁輔と触れ合う内に、「温かさ」というものを知っていく。仁輔もどんどんスズキさんに甘えますし。すげぇホッコリする。
もうね、スズキさんの変化の仕方が凄い。デレるの雷鳴の如き早さである。ちょろーい!だがそれがいーい!実に良い。最初は事件に巻き込まれたくないし、自分が人を殺した事を見てた仁輔を「殺してしまうのが一番安全」と冷酷だったんですけど、あっさりと陥落しました。勝因?「ママ」の一言ですね。
ママー!
仁輔がようやく夢でなく、母親が殺されてしまったという現実を突きつけられ、自分の名前をママに呼んで欲しいと願ったところへタイミングよく「ジンスケッ…!」とスズキさんが呼んで「ママァー」と抱きつくの図。
殺そうとしてたの、抱き返そうとするスズキさんが最高だね。その、スズキさんが子供に触れてテレてる様子をじっくり丁寧に詳細に描くから、こっちも心がポカポカしてニッコニコしちゃいます。その後も、この2人の温か模様は素晴らしいの一言でしょう。不器用に突き放そうとするんだけど、なんのかんので母親をやってしまうスズキさんが超可愛い。性的な意味でなく、母性的な意味でね。
特に4話「成長」は胸に熱いものがこみ上げてくる。
はじめての手料理である。カレーを仁輔の為に作ってあげるエピソードなんだけど、最高と断ずるに些かの躊躇も持たぬわ!はじめて手料理を披露して「おいしいッ…!」と言われました。そして、スズキさんの反応がね。いいんだ。
スズキさんのこの反応よ
自分で作ったカレーが「ちょっと今、お腹一杯になっちゃったのよ」と食べれませんでした。スズキさん、それはね、お腹でなく胸が一杯なんだよ!読んでるこっちの胸も一杯になるってものですよね。また、赤面する顔を見られたくなくてお盆で顔を隠すのもいいね。自分で赤面していると知ってる証拠であろう。
この擬似親子の様子はホッコリ&ニッコリしちゃうじゃないの。
アクションも良いし、サスペンス調で描かれる展開もテンポが良い。でも、この擬似親子の不器用な様子こそ、この漫画の真髄であろう。
血が繋がらない、まったくの他人で、なし崩し的に事件に巻き込まれちゃったんだけど、「親子とは何か?」「家族とは何か?」がテーマなのでしょうかね。答えなんて描かれませんよモチのロンで。それを探すことが人が生きるということですし。おすし。スズキさんはどう生きるんでしょうね。
冷酷な凄腕の殺し屋だったスズキさんが仁輔と触れ合う事で人の温もりを知った。家族というものをちょっとだけ知った。母性に目覚めつつある。それは、本職の仕事・殺し屋のスキルが後退する事とイコールとなっている。
冷酷な殺し屋だったのが→冷酷な殺し屋でなくなってしまった
最初は殺した相手が家族の写真を携帯の待ち受けにしている様子を鼻で笑いながら「そんな待受(家族の写真)にしてるから早死すんのよ」と一笑に付する。まさにキラーマシンである。これぞ殺し屋である。
ところが、仁輔と触れ合って擬似的な親子関係を過ごしてしまったスズキさんは、追手の家族の写真を見て狼狽えてしまう。『キャプテン翼』の吉良監督風に言えば、「牙が抜けた虎」である。以前のスズキさんなら、情け容赦なくぶっ殺したであろうに…。バトル漫画風に言えば「甘さ」が出来てしまった。
ふむ。今後はどう転がしていくのでしょうか。私、気になります!
スズキさんが仁輔を「ジンスケ」とカタカナで呼ぶのも気になるね。まあ、口頭で名前聞いただけだし。苗字も漢字でどう書くか知らないんでしょう。スズキさんも「スズキさん」とカタカナだし。こっちは本名なのか漢字で鈴木なのかどうか読者もまったく分からんけど。しかし、久々に擬似家族ものでホッコリしましたわ。
というのも、最近は擬似家族作品に食傷気味であった。チャリ漫画と飯漫画と擬似家族漫画は流行ってるし売れてるんだろうけど、飽き飽きなんじゃ。まあ、俺の好みの問題で、おっさん(お兄ちゃん)と少女の擬似家族ものばっか触れてきましたから。
この手の作品って決まって、絵に描いた餅のようにラストは「家族として好きかVS異性として好きか」に収束でしたし。おすし。もうお腹いっぱいだったんだけど、この『スズキさんはただ静かに暮らしたい』はなかなかどうしてよ。良いんじゃねーの。擬似家族という皮で男女の「愛」を描くより、ど真ん中に擬似家族の「愛」が読みたかったんです。
タイトルも冒頭でラノベ風すぎると言ったけど、1巻読破後では実に味わいがあるね。『スズキさんはただ静かに暮らしたい』は、最初は殺し屋のスズキさんが静かに日常を送りたいという意味だったんだけど、今ではスズキさんは仁輔と2人でただ静かに暮らしたいという意味に思えるね。
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