ねぇ…いっしょに生徒会やらない?
なんだこの読後の気持ちの良さは!
一度連載で読んでたはずなんですけど、単行本でまとめて読んだほうがはるかに面白かった。
『GUNSLINGER GIRL』の相田裕先生の新作『イチゴーイチハチ!』である。
『バーサスアンダースロー』という同人誌が元となっており、それが同人誌でありながら文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品に選ばれたというね。焼き直し?いえいえ、完璧な再構築です。
松柏学院大武蔵第一高校は埼玉の私立高校。
新入生の丸山幸は、高校でやりたいことが見つからず、中学の先輩がいる生徒会の手伝いをすることに。そこではケガで野球を諦めた少年と、かつて野球選手だった生徒会長の運命の再会があった―
1巻の裏表紙より。
まあ、これじゃ何がなんやらでしょう。
公式サイトで1話が読めますので、まずは読んでみて下さい。
<まずは1話を読むべし>
・『イチゴーイチハチ!』スピリッツ公式サイト
徐々に上がっていく面白さ
読んだ?1話を読んで「ほーん、で?」って思うよね。
ぶっちゃければお世辞にも面白い1話ではない。(せめて2話まで試し読みさせろ)しかし、圧倒的に面白い1巻なのだ(断言)。
読後の清々しさが半端じゃない。そして、思わず「ん?これはひょっとしてこういう事か?」と思わず読み返してしまう作り込み。完璧っすわ。1巻で完結と言ってもいい完成度。続きが読みたいと思わせる引き。まさに理想的なコミック1巻といえよう。
まず、主人公の丸山幸が可愛い。
丸山幸
ふむ。可愛いですね。
ちびまる子ちゃんが、もし美少女でスクスク育てばこんな感じになるんじゃないでしょーか。圧倒的な可愛さで(^ω^)ペロペロしたくなるものです。きっとクマさんパンツが似合うでしょう。本当に「良い子」を具現化させたらこうなりましたみたいな娘です。表情豊かで感情の起伏も素晴らしい。良い娘すぎるよ!
丸ちゃんの主人っぷりもいいね。
前半は第三者的な視点で完全に狂言回しの役割だったのに、後半はちゃんと主人公というかヒロインしちゃってます。
で、YOUは何しに松武に来たの?
そこが一切語られない。生徒会をやると最初から決めてたけど、何のために松柏来たん?舞台となる松武高校は埼玉の公立トップの併願校である私立。たいていの生徒は本命の公立落ちて入学している。クラスメートも部活目当てとか制服目当てって言ってるのに、丸ちゃんだけは語らない。
松柏の校章バッチが丸ちゃんだけ2つバッグにあるのは何でなの?
丸ちゃんは2つ / 普通は1つ
この辺りのバックボーン。
私、気になります!
というのも、「イチゴーイチハチ!」最大の魅力はキャラクターに尽きるからでしょう。リアリティがあるっていうのかな。思わず「ああ、こう人いるなぁ」って思えるからね。実在感って言うべきか。設定厨も大満足の作り込み。
普通の学園ものは、不良は不良、ツンデレはツンデレって役回りがあるじゃないですか。でも「イチゴーイチハチ!」は、キャラクターに生き様というか「オレの人生」がある。非常に重層的に描かれる。よく言えば人間味溢れる、悪くいえばキャラがブレてる。凄まじいリアリティなのです。
私は高校を卒業して十数年経ったおっさんですけど、作者は今の高校生か?というぐらいの今の高校生にありそうな学校生活を描く。高校の生活感がある。で、丸ちゃんはとっても良い子なのは分かるけど、丸ちゃんの生き様は1巻では分からない。そこが引っかかって気になる。
そも、丸ちゃんは夢を見つけられない少女ですし。おすし。そんな丸ちゃんがこれからの高校生活で夢というか目標を見つけるまでがコミック1巻である。
夢を、高校生活の目標を決めました
神社で願う丸ちゃん。
神様どうか奇跡を起こして烏谷君のケガを直して下さい。
それが叶ったら、私の人生は平凡なままでかまいません。
もし奇跡が起きないなら、その時は―
その解答が14ページ後に述べられている。胸が熱くなったね。
1巻は夢を見つけたれない少女の丸ちゃんが夢を見つける物語。その夢はイコールで1人の野球少年の夢が終わる物語。
対として、夢が終わった烏谷の描かれ方もなかなかどうしてよ。いちいちリアルというか説得力がヤバイ。烏丸の生き様も素晴らしい。胸熱!シニアまで天才野球少年の烏谷がケガで高校野球を諦めて生徒会に入るまでの物語。一つの夢がはじまり、一つの夢が終わり、また新たな夢に進む。これは良い青春モノです。
さらに凄いのはこれぞ「生徒会」モノな点。
今まで数々の生徒会モノを見てきた私ですが、ここまで生徒会と向き合った作品があっただろうか。ない!(知らないだけかもしれんが)。
だってですよ。私が知ってる生徒会モノって、「生徒会」をツールで通して人間関係を描くものばかりですもん。それ、別に飼育委員でも美化委員会でもよくねーかって思うものです。しかし、『イチゴーイチハチ!』は生徒会じゃなきゃ!って思うもん。それほど見事に生徒会の仕事を丁寧に描く。
だから光るよね。
丸ちゃんの台詞が。
「ねぇ…いっしょに生徒会やらない?」
2話で「ねぇ…いっしょに生徒会やらない?」と烏谷を誘いつつ、心の中では「きっと野球とは違う楽しさがあるよ。…なんて言えないか。」と思っていた事を飲み込むわけです。
この2話で、飲み込んだ言葉を1巻ラストの8話「目標見つけた」でね。丸ちゃんは口に出して言うわけです。そこへ至るまでの流れが素晴らしいの一言。
「この先っ、野球とは違う楽しさが…きっとあるよ!」
2話では口に出せなかった「野球とは違う楽しさがあるよ」という生徒会への口説き文句。これを8話では述べるんだけど、それを口に出すまでの過程が見事に描かれている。
生徒会の仕事を、楽しさを、生徒会じゃなきゃ出来ない青春を描いた後だから説得力が半端ない。ブラボー!アイス大作戦!
とってもとっても素敵な生徒会物語です。読後に唸った至高の1冊。1巻で完結でも納得出来る完成度です。続きが読みたいと思わせるワクワク感が見事にマッチしている。まさに理想的な単行本1巻といえるね。
プラスして特筆したいのはメタファーの効かせ方だろう。これが超スゴイ!例えば、この作品の「イチゴーイチハチ!」というタイトル。一読すれば高校生活の15歳から18歳までの青春だろうと思ったものです。
しかし、読み返せば背番号15の烏谷と、背番号18の会長が一つの夢を諦めて次に進むタイトルのようにも思える。この辺りの二重掛けが上手いっすわ。
個人的キモは2人の下校シーンである。
この舞台の松柏学園大付属武蔵第一高校は公立トップ校を受験する者が併願する滑り止めの私立高校。故に、松武の生徒は通学時に通る川を、受験に敗れて渡るから、三途の川と呼ぶそうな。通学するには、学校前の三途の小川を渡るのだ。
当然、三途の(小)川を渡るシーンが印象的です。
受験に敗れた者が渡る三途の川。三途とは、地獄・餓鬼・畜生の三悪道である。
すさまじいパンチの聞いたネーミングセンスの通学路ですけど、これをね。下校時ばかり描くという(戻るという)。丸ちゃんと烏谷は下校時に一緒に渡る、戻るんだ。それが話が進むごとに、地獄から戻って、前向きに進んでいくように魅せるね。そんなメタファーが素敵すぎる。
2人は下校する、話が進むに比例して進む
作者が意図して描いてるか知らんが、丸ちゃんと烏谷の2人は一貫して一緒に下校する。
それも話が進むごとに、地獄から進んでいく。一緒に三途の川を戻っていく。地獄には行きません。前向きに進みますっていうメタファーに見えるよね。素晴らしき完成度の1巻であった。まる。
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