あだち充漫画です。
『MIX』7巻を読破。
うん、あだち充漫画だよな。
これはラブコメとか青春漫画とか野球漫画というジャンルではないのである。あだち漫画というジャンル。ラブコメもあるし、青春もしてるし、野球もしてる。それらを混ぜつつ、読後にはやっぱり「あだち充作品」と思うのである。
7巻では、「明青学園VS健丈高校(元須見工)」の1回戦の決着。元須見工といえば『タッチ』じゃラスボスの学校でしたからね。思い返せば、4番新田よりも5番大熊に2発もホームラン打たれたりと、結果は「5-4」とプチ炎上したりもしましたが名試合でした。
そんな健丈高校(元須見工)と1回戦でぶつかる。手に汗握る熱い試合かといえば、あだち節でまったり加減。独特のドライなノリでさらりと流しつつも試合後には余韻を残させるという、あだち充先生にしか描けない展開でしたね。
健丈高校には新田のような強打者もおり、かなりの接戦でしたね。
激戦VS健丈高校
健丈の4番赤井
逆転のツーランホームランを打たれてしまうの図。
ホームランできるような球ではなかったのですが、赤井はホームランを打ってしまう。
試合は逆転され「1-2」となる。すごいな。逆転されたのに「ヤバイ」とか「まずい」とか一切思わない。派手さも盛り上がりもない。さすがあだち先生です(褒めてます)。
この淡々と事象を積み上げていく感じが良いんですよ。そもあだち作品のキモは、凄く地味な形で堅実に積み上げにこそある。
それは野球の試合も一緒。読了後に「あ、勝ったんだ」とか「あ、負けたんだ」とか読み終わった後に気付くレベル。もうスポーツ漫画じゃないんだよね。
でも、コミックをまとめて通して読むとその積み上げた事象の集大成がすごく味わい深いんだよね。
で、赤井には明青中学に通って1個下に弟がいる。
子どもの頃は仲が良かった様子、今は険悪な様子が描かれる。
おそらく、兄弟確執の何かがあったであろう事が伺える。
赤井兄弟
…と、一応伏線のようなものも貼られてるけど気にもしない。
というか、あだち先生本人が忘れてしまう事もしばしばあるし。
かといえば、『H2』の木根とおじいちゃんのような上質なエピソードをサラッと描いたりするからあなどれない。積み重ねこそあだち作品の面白さだけど、ライブ感(行き当たりばったりとも言う)も合わせもつのも魅力の一つだ。
個人的に7巻で驚いたのは健丈の監督であろう。
以下、ネタバレ風味。
健丈の監督・小宮山
畜生畜生アンド畜生やんか!
猛打の健丈打線をキリキリ舞いにさせる投馬に対して「野球は勝つためにやるんだよ」「相手がどこでも…な」と言い放った直後に、バッターボックスにの投馬がデッドボールを食らう。わざとぶつけたのだろうか?
真意は不明ですが、描写だけならどうみてもわざとぶつけた感じである。(ミスリードの可能性もあるけど)
健丈の監督は『H2』の栄京・城山監督や『クロスゲーム』の大門監督のようなゲス野郎っぷり…だけで終わらなかったのがちょっとビックリですね。
城山や大門とは一線を画する。元々あだち作品の大人って大多数が少年の心を持ってるからね。愛嬌のあるおっさんとでも言うべきか。
きちんとした手本となる大人というよりも、どこかふざけた不真面目な大人を描くのが上手い。『MIX』のおっさん達も、お世辞にもきちんとした大人とは言えないからね。
最近のあだち先生の短編は「大人になった少年」というテーマ(?)のような作品がけっこうある。
高校時代に野球部で青春をして大人になった…という視点で描かれる話が多いかな。
どれも感じるのは、あの輝かしかった青春時代は二度と戻って来ない哀愁のようなもの。
または汚い大人になったけどかつては…と、ちょっと切なくもなるけど、大人も少年だったのである。何を当たり前のという気もするけど、それを踏まえると『MIX』のおっさん達に対しても面白い「読み」が出来る。
7巻では勢南の西村親父が珍しく熱くなっていた。
西村親父
『MIX』の西村(父)はサングラスしてダンディに決め込んでクールなキャラですからね。『タッチ』じゃオチ担当だったくせに!
そんな西村(父)が、熱く握りこぶし作って燃えちゃってるじゃないですか。
「盛り上がららねえんだよ、揃わなきゃ…明青、須見工、そして勢南がな」と言い出すわけ。
かつて少年だった大人と、いま大人であるという立場のそれぞれの観点で見ると面白いね。
クールな西村(父)の胸のうちにある少年心に火が付いた。
話を健丈の監督に戻そう。ぐうの音も出ない畜生(のように見える)なんだけど、この汚い大人の健丈監督・小宮山がなかなかどうして。四国の名門野球部で鬼と呼ばれた指導方針で衝突し健丈に流れ着いた男である。
『クロスゲーム』で大門監督にも昔は真っ直ぐ野球をやってたのだろうかとかいう台詞があったのを思い出す。結局分からなかったけど。
んで、この小宮山監督。
ただの畜生ではなかった。
小宮山と轟
健丈の轟という3年生。面から分かる通りネタキャラというかオチ担当みたいなものです。エリート1年ズの中で浮きまくる男。実際に試合中に痛恨エラーかますし。
それでも、小宮山は特に咎めなかった。
懲罰交代とかも無し。
普通に信頼してるの。
1年ズが白い目で轟を見るんだけど、轟は実は凄いヤツなんだとか語りだすわけ。
『H2』の城山監督が小倉を使うようなものですよ。『クロスゲーム』の大門監督が三木を干さないようなものですよ。
あれ?小宮山って実はいい大人なんじゃないかと思ってしまう。
最後まで轟を信頼といか任せていた小宮山には胸に来るものがあったのである。
ひょっとして名将?畜生ではない?サラッとこういう風に描くからあだち先生は凄い。
また、7巻では不足してると思われてたラブコメ成分も着火しそうである。
まあ、『タッチ』は7巻でかっちゃん逝ってしまったのに比べるとスローテンポなんだけど。でも、じっくりゆっくり進んでる。1話1話の日常の積み重ねる感じが良い。あだち充漫画である。
しかし、試合中でも意味もなく水泳授業のシーンを入れるのには、あだち充先生の業の深さを感じるぜ!
意味もなく水泳授業シーンを入れる
むふ。
あだち充漫画です。まる。
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