90年代は柔道漫画が豊作で『柔道部物語』『YAWARA!』『帯をギュッとね!』は今でも好きな作品です。ただ、当時と今では柔道のルールがかなり違う。
今回検証したいのは猪熊柔は現行ルールで無敗を保てるかである。作中では不戦敗はあるものの試合は全て勝利した怪物女子です。今のルールでも全勝が可能か調べてみました。
現在のルール
当時は「効果」「有効」「技有り」「一本」の4段階でしたが、現在は「技有り」「一本」のみ。さらに場外になっても「待て」はかからず寝技なら続行されます。
『YAWARA!』作中のルール | 現在のルール |
「効果」「有効」「技有り」「一本」 | 「技有り」「一本」 |
場外に出たら速攻「待て」 | 場外に出ても寝技継続 |
抑え込み一本は30秒 | 抑え込み一本は20秒 |
もっと言うと今は下半身に手で触る事も反則となっており、タックル系や「肩車」「すくい投げ」「朽ち木倒し」「もろ手刈り」も使えません。
というわけで作中の「効果」「有効」「技有り」を全て「技有り」にカウントして調査してみます。
VS巌流寺高校
1巻6話
ひょんな事(滋悟郎の策略)で巌流寺高校との団体戦の練習試合のメンバーになってしまった柔ちゃん。弱小武蔵山の大将となってしまい、花園が先鋒倒すも次鋒から対象まで4人と対戦することになる。
VS倉持 | 秒殺一本背負いで勝利 |
VS巻田 | 秒殺で巴投げで勝利 |
VS権守 | 腕ひしぎ十字固めで辛うじて勝利 |
VS佐々木 | 抑え込みで一本 |
巌流寺の副将権守(巨漢)に足を痛められて「有効」取られたり、2度ほど場外で難を逃れての辛勝でした。今のルールだとこれ負けてるだろ!
有効取られ抑え込みは場外になった(1巻7話)
現在なら「技有り」取られた上に寝技は継続されるのでそのまま抑え込まれていたでしょう。+10秒抑え込めば「技有り」で合わせ技「一本」で敗北確定。柔ちゃんボロボロでしたのでこの状況で返すのかなり厳しいかと。
というわけで巌流寺の副将権守に今のルールなら敗北です。猪熊柔敗れたり!である。まあ、公式戦じゃないし相手男子なのでノーカンでもいいけど。
VS藤堂由貴
この人…弱いわ!!(2巻9話)
本阿弥さやか嬢がテレビで名前出して一躍時の人となってしまった柔ちゃん。本人は普通のJKでいたいので藤堂由貴にわざと敗北しようとするもついうっかり勝ってしまった試合。
2巻10話
開始早々に「有効」を取られ、「有効」を返して、「技あり」を取られる。今のルールなら「技あり」2本を先に取られて合わせ技「一本」で負けです。現在ルールなら猪熊柔は普通の女子高生で過ごせた世界線だった。
クジTV杯
1回戦「VS藤沢久美」 | 秒殺(2秒)一本背負いで勝利 |
2回戦「VS村上」 | 秒殺(3秒)一本背負いで勝利 |
準決勝「VS大友理恵」 | 秒殺(5秒未満)一本背負いで勝利 |
決勝戦「本阿弥さやか」 | 秒殺(2秒)一本背負いで勝利 |
合計の試合時間10秒に満たず危なげなく秒殺で決勝に進出。決勝戦に勝ち上がってきた自称宿命のライバル本阿弥さやか嬢も無問題で秒殺して見事オール秒殺一本勝ちで優勝。現在ルールとか関係無しの強さ。
VSジョディ・ロックウェル
ジョディ…この人…強いわ!!
道場破りのような感じでやってきて住み込んでしまったカナダのジョディ。なんやかんやで練習試合する事になり、藤堂由貴戦のセルフパロディやって強さを引き立てる。
5巻2話
作中ではじめて本気の本気になった相手であるのに互角以上で返してくる。女子相手にはじめてポイント取られた試合でもあり、一進一退の大激戦をしました。柔ちゃんが柔道で楽しくなった最初の試合でもある。
途中でジョディの怪我で無効試合となりましたが、現在のルールに当てはめよう。
最初にジョディが「有効」を取る。そして抑え込みで30秒ギリギリで返して、柔ちゃんが「技あり」取り返す…という序盤の流れ。今ならジョディの「技あり」。抑え込みも10秒で「技あり」20秒で「一本」なので、抑え込み10秒経過で合わせ「一本」、抑え込みだけでも20秒経過してる。
現在ルールなら普通に柔ちゃんの負けです。
あたしも初めてよ、こんなに楽しかったの。だから今度…その腕が治ったら、また本気で勝負しましょう、ネッ?どこかの大会で…(5巻3話)
再戦を誓う2人。まさか作中ラストまで引っ張るとは誰も予想できんかったわ。
紅玉杯
ほぼカットで決勝も楽勝。対戦相手の名前も不明でオール一本で優勝しました。
現行ルールとか関係無しに圧勝。
勾玉杯
ほぼカットで決勝も楽勝。
現行ルールとか関係無しに圧勝。
西海大学柔友杯
オール秒殺で優勝。
現行ルールとか関係無しに圧勝。
清心旗
オール秒殺で優勝。
現行ルールとか関係無しに圧勝。
(これで7大会連続優勝らしいので間に複数大会参戦して優勝してる)
全鷹旗
1回戦「VS小林」 | 有効取られるも圧勝 |
2回戦以降描写無し | オール一本勝ちらしい |
準決勝戦「VS?」 | 一本背負いで勝利 |
決勝戦「VS小川珠代」 | 右手負傷するも圧勝 |
現行ルール関係なしにほぼほぼ勝利。右手のねんざは受験に影響(ラブコメ的に重要イベント)するも柔道試合にはほぼ関係ないのでこの記事では割愛。
全日本女子柔道選手権
1回戦「VS村井」 | 秒殺一本背負いで勝利 |
2回戦「VS安藤」 | 一本背負いで勝利 |
準決勝「VS小川知子」 | 一本背負いで勝利 |
決勝戦「本阿弥さやか」 | 不戦勝 |
オール一本勝ちで決勝進出。決勝の相手は自称ライバルの本阿弥さやか嬢が準決勝で藤堂由貴に勝利するも骨折して不戦勝となる。現行ルールとか関係無しの圧勝劇。
ソウル五輪(無差別級)
リアルではソウル五輪(そも女子が加わったのもここ)から無差別級は廃止されたのだが『YAWARA!』は柔よく剛を制すがミソなので作中では無差別級が開催される世界線となってる。柔ちゃんは無差別級の代表になる。
1回戦「VSタオ(中国)」 | 秒殺一本背負いで勝利 |
準決勝戦「VSベルッケンス(ベルギー)」 | 一本背負いで勝利 |
決勝戦「VSテレシコワ(ソ連)」 | 大激戦でギリギリ勝利 |
VSベルッケンス
ベルギーの世界選手権5連覇の女王ベルッケンスはジョディやテレシコワと同じように世界の未知なる強豪として初登場。いよいよ柔ちゃんと試合だったが格が違いすぎた。
この人…強いわ…
ってお馴染みの柔ちゃんの強者判定受けるものの、ひたすら一本取られない試合運びするだけ。
9巻5話
一進一退の攻防するわけでなく圧勝しました。柔ちゃんの「この人…強いわ」判定は幅があるな。現行ルールでも危なげなく楽勝です。
VSテレシコワ
決勝の相手は再戦を約束したジョディ…ではなくテレシコワ。
ジョディはテレシコに準決勝で負けた。試合を有利に運ぶも途中怪我をしてそこを徹底的に狙われ敗北して約束の再戦は叶わず。骨折しても、あとちょっとまで追い詰めたジョディの底力もヤバイ。
9巻9話
ソウル五輪の無差別級もう一つの準決勝「ジョディVSテレシコワ」はこの漫画屈指の名勝負。余談であるが現行ルールだと寝技攻防で場外「待て」はないのでジョディが勝ってた。でも、「もろ手刈り」は現在だと反則なので終盤の「技あり」返しもないか。
ケガさえ無ければジョディが勝ってた流れであったが、テレシコワはめちゃくちゃ素で強い!ジョディに続いて2人目の超本気出しても互角以上にやり返してくる相手2号である。
ソウル五輪のテレシコワはカウンタータイプで柔ちゃんの一本背負いに裏投げを合わせ、それで脳震盪を起こして大苦戦しました。しかし、今のルールで見ると普通に楽勝なのですよ。
9巻11話
というのも最初はジョディの仇と攻め立てる。
それが大味となりカウンターの裏投げ食らったのです。
しかし、現在ルールなら序盤のやけくそとも言える攻めで「有効」2つ取ってるのでこれは「技あり」になり、合わせ「一本」なのです。現行ルールだと秒殺してたわけです。
当時のルールでは奇跡の一本背負い出して大逆転の勝利ですが、今のルールなら試合序盤で合わせ「一本」で終了である。
VSクリスティン・アダムス
11巻1話
親友ジョディの結婚式に参加したらクリスティン(カナダの強者)と試合することになったでござるの巻き。
クリスティンは後にテレシコワや伊東(花園)富士子と大激戦する良いキャラであるが、柔ちゃんとは階級が違うし無差別級のカナダ代表はジョディなので、その後に柔ちゃんとほぼ絡まない地味な作中の強者でした。
試合は「この人…強い」判定を受ける世界的強者の矜持を見せるも一本背負い食らう。再戦も無いし、階級も違うし、カナダにはジョディがいるので、その後は他強者と鎬を削るキャラに落ち着きました。
柔ちゃん本人と絡んだ最初で最後のエキビジョン試合でした。
現行ルールでも柔ちゃんの勝利。
紫陽杯女子団体戦
柔道部なんて無かった三葉女子短大で親友の富士子さんが柔ちゃんの為に作った女子柔道部。寄せめながらひたすら練習して他大強豪部にもやり合えるようになってた面々。最初で最後の公式戦の団体トーナメントに挑む。
- 南田陽子…喪女パワーで叩き潰す
- 四品川小百合…ダイエットは出来てないが重さで叩き潰す
- 日陰今日子…虚弱体質だが技術は一品
- 小田真理…お色気要員
- 伊東富士子…元バレリーナで柔道の実力は世界トップ
- 猪熊柔…最強秘密兵器
柔ちゃん抜きでもガチのマジで強かった三葉女子短大女子柔道部。柔ちゃんが実際に戦った試合は以下の通り。
VS準々決勝黒白女子大将戦(藤堂由貴) | 大内刈り一本勝ち |
VS決勝戦筑紫大(五人) | 大将の柔ちゃんが5人抜き |
準々決勝は藤堂由貴率いる全員重量級の黒白女子大戦。素人軍団の三葉女子短大が何とか大将まで持っていき万全の柔ちゃんが藤堂由貴に圧勝。
三葉女子短大は準決勝でさやか嬢のチーム相手でも富士子さんがさやかと引き分けることで大将の柔ちゃんまで回さなかったりと各キャラの活躍が光りまくってた。
そして決勝戦は因縁の筑紫大!
4人抜きされ柔ちゃん一人で5人と相対する。
13巻5話
筑紫大 |
VS先鋒「大垣典子」 |
VS次鋒「黒川智子」 |
VS中堅「宇崎恵」 |
VS副将「鹿取しのぶ」 |
VS大将「山田香」 |
なんだかんで国内実力者5人との連戦なので苦戦しつつも、特に技を取られることなく、5人抜きして優勝。現在のルールでも普通に勝ってます。
第12回全日本女子体重別選手権(48キロ)
1回戦「VS藤村久美」 | 秒殺一本背負いで勝利 |
2回戦「VS?」 | 秒殺一本背負いで勝利 |
3回戦「VS?」 | 秒殺一本背負いで勝利 |
準決勝「VS?」 | 楽勝だっと思われ |
決勝戦「VS大垣典子」 | 秒殺一本背負いで勝利 |
地味に紫陽杯女子団体戦で戦った先鋒の大垣典子との再戦。
しっかり秒殺して優勝しました。
ユーゴスラビア世界選手権(48キロ級)
1回戦「VSドヌーブ(イタリア)」 | 大苦戦して判定勝ち |
2回戦「VS?」 | 「技あり」「有効」で判定勝ち |
準決勝まで | 四苦八苦して勝ち上がった |
決勝戦「フルシチョワ(ソ連)」 | 劣勢ながらも逆転一本勝ち |
今やユーゴスラビアもソ連も無いが、『YAWARA!』連載中には存在して確かな存在感を放ってたのがソ連です。
ソウル五輪決勝で死闘を繰り広げたテレシコワの同僚で、48キロ級最大のライバル強者として登場したのがフルシチョワである。なお、今大会は柔ちゃんは無差別級に出場せず48キロ級のみ出場(テレシコワやジョディとは当たらない)。
身体は小さい(48キロ級)でもテレシコワ級(16巻1話)
柔ちゃんは、まさかの松田さんの愛パワーが無いと弱体化する恋する軟弱乙女と判明して全試合大苦戦するのであった。
1回戦のドヌーブに大苦戦して判定リード勝ちですが、現行ルールなら先に「技あり」「有効」取って合わせ一本だったので楽勝で終わってます。2回戦も「技あり」「有効」先取してるので合わせ一本勝ち。
のらりくらり決勝まで行き…48キロ世界最強っぽく登場した同階級のテレシコワというフルシチョワと決勝。ほぼ劣勢の状態で恋する乙女パワーで逆転勝ち。特にポイント先取されてないので現行ルールでも普通に柔ちゃんの勝ちです。
(続くぞい)
コメント
年末に凄い熱量を、昔のヤマカムさんのような情熱を感じた。アニメ版しか見ていないけど、『YAWARA!』懐かしい。
個人的にはテレシコワが好きだった。水谷優子氏による、冷徹と激情を併せ持った演技が凄く良かった。
アニメ版(アトランタ五輪編)では、テレシコワとの対戦がほぼ全てカットされたのが悲しかった。
令和にYAWARAの記事を読めるとは…
ルール大分変わってますね。連載中にソ連崩壊して、テレシコワが大変な目にあったんでしたっけ。時代を感じるなぁ
作品上の扱いとして柔は最強なので、ルールが改正されたなら、改正されたルールで勝利するとは思いますが、どう勝つのか考える楽しみは有りますね。
それより、時代が現在になったなら、ソ連崩壊に振り回されず、テレシコワとフルシチョワが万全の状態だったらどうなるのかも興味が有ります。ついでに新型感染症も無しで。
ヤマカムさんが柔道に詳しいとは驚き。「効果」「有効」が廃止されていたとは知らなかった。『YAWARA!』の世界観なら、ルールが変わっても結局は柔が勝つでしょう。
この作品は30年以上たっても面白い(バブル時代の社会情勢を知らないとわかりにくいが)。だが、主人公が無敗のスポーツ漫画は、どうしても好きになれない。
YAWARAってどっちかっていうと柔の心の成長物語だから笑笑
効果、有効が廃止されたら、技あり以上を取ってる描写じゃないとポイントにはならんやろ?
効果、有効と技ありでは、意味が全然違う。