良い。とても良い。
『あにいもうと』(ハルミチヒロ)が素晴らしい短編集でした。ハルミチヒロ先生の作品というと扇情的でけっこうお世話になったものでしたが(←?)、楽園で恋愛読み切りを描いてビックリしたもの。こんなに面白く心に触れる恋愛漫画を描くとはねぇ。
「ベルベット・キス」でブレイクした著者の読み切り作品集。異性・同性・近親・年の差…。表題作はじめさまざまな関係の二人の想いをカタチにした甘く切ない読み切り作品6本+番外編2本収録。
収録されているのは「ガールフレンド」「間違ってる恋」「あにいもうと」「あにいもうと after」「春になったら」「キラキラ」「夜をとめないで after」「魔法使いの娘」「かわいいひろ」。6本の話と番外的な3本。どの話も素敵すぎて、これぞ珠玉の短編集です。
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いやー、何度も読み返しちゃうね。
絵も雰囲気もストーリーも全部良い。本当に面白くて最高です。
珠玉の短編集『あにいもうと』
オビの通り「近親へ同性へ異性へ向けられたさまざまな愛のカタチ」です。
登場するヒロインはみんな個性的で可愛らしい。でも悩みなどを抱えておりエピソード毎にテーマがはっきりしてて成長が見て取れます。設定に仕掛けがあったりと飽きないどころが全部最高です。
同じような話は一つもない。どの話もまったく違うのにそれぞれ別ベクトルで良作。とても意識が高いと思います。宝物のような一冊になりますわ。
「ガールフレンド」
「ガールフレンド」
ケガで陸上が出来なくなった少女とボーイッシュガールのガール・ミーツ・ガール。
女子校でボーイッシュな上野は宝塚的な人気で女の子たちからキャーキャーとモテまくる。陸上部のエース久保田は腰のケガが原因で部活をやめてしまう。上野は特に目標がなくなった久保田を元気付けようと男装を誘ったりしますが、久保田のいた陸上部の仲間から疎まれるようになってしまいスカートを盗まれてしまう…。
2人が友達になるお話し。「笑ったらかわいい」で赤面した久保田が可愛すぎた。ただ2人が仲良くなっただけだけど自然と頬が緩んじゃいます。百合ではなく友情って感じですがとても可愛らしく幸福度がありました。
「間違ってる恋」
間違ってる恋
初体験がなかなか出来ない高校生カップルの話。いざって時に彼女がストップかけておあずけ状態になる彼氏は悲しい顔。実は彼女には秘密がありました。彼氏の「泣きそうな顔、怒ってる顔、悲しそうな顔」が好きと。初体験の直前で待ったをかけて楽しんでる節まである。ドSかよ!
頭のなかでは彼氏の事を縛りたいとか想像しちゃうヤバイ娘です。「大好きだけどかわいそうなあなたが好きなんだ」はある意味で至言。しかし、彼女はおあずけにさせると実は悲しそうな顔をしており、その顔が彼氏は好きだった…って、お前らお似合いだよ!
モノローグが分かるんだか分からないんだか。好きな人を自分だけのものってところが分かる人もいるかもしれなし、うわっこいつらヤバイって思う人もいるでしょう。ちょっとゾクゾクする不思議な読了感。
「あにいもうと」「あにいもうと after」
あにいもうと
表題作にもなっている「あにいもうと」はこの短編集でも一番のお気にい入りです。年の離れたお兄ちゃん大好きな妹(13歳)が最高に可愛かった。妹が可愛いのは当たり前ですけど、今作の妹はまた違った可愛さです。これは妹作品の新境地を切り開いたのではないだろうか。
ある日、妹の前でお兄ちゃんは婚約相手を連れてきて紹介します。お兄ちゃん大好きな妹は大大激怒して家出までしてしまいます。これこれ。お兄ちゃんLOVEこそ妹の醍醐味ですからね。よく現実世界の妹を持ち出して妹は可愛くないって抜かす人いるけど喝だよ!妹なんてファンタジーに決まってんだろーが!
リアル世界じゃ、可愛くなかったりお兄ちゃんが嫌いな妹もいるでしょう。しかし、二次元界の妹は違う。可愛くないなんてあり得ない。お兄ちゃん大好きに決まってる。それが二次元の妹。理想と書いて「妹」と読むぐらいご都合主義の結晶体なのです。二次元の妹となら結婚だってできます!
とられた
そこいくと「あにいもうと」の妹は可愛くてお兄ちゃん大好きで理想的すぎるファンタジーのようでもある。がしかし、今作のすごいところはリアル路線なところ。この短編集が全体的に意識高い系なので、心の機微などもめっちゃリアルなんですよね。
ファンタジーのようでリアルな妹なんです。ご都合主義の結晶体ではなく現実的な展開で妹の可愛さをこれでもかと引き出してくれる。妹は現実と二次元のものではまったくの別物ではあるがリアル路線で「お兄ちゃん大好き」な妹の感情をビッグバンさせておる。
ファンタジーの妹とリアルの妹のバランス感覚が素晴らしい。二次元の妹は夢の中にしか存在しないが、こんな妹なら現実にいそうと読者に思わせてかつぐうの音も出ない可愛さです。家族をテーマにして妹とお兄ちゃんの嫁のやり取りはグッときます。初潮とかも飛び出すし、もうね、もうね…ただただ最高だった。「after」もグッド。
「春になったら」「かわいいひと」
楽園掲載時に感想書きましたけど、改めてコミックで読むとめっちゃ良いですね。全体的なことだけど恋愛をテーマにしてキャラクターの内面的な成長をしっかり描いています。心に染み渡る「良いお話し」です。
「魔法使いの娘」
魔法使いの娘
設定がなかなか面白い。母親が魔法使いで娘にムラムラする人間は地味にひどい目に合うって魔法がかけられています。というわけで幼なじみの彼氏とイチャイチャできなくて母親と娘が喧嘩してしまう話。
最初はラブコメ的なものかと思いつつ、メインで描かれているのは母娘の親子愛です。母親がものごっつ美人だったのも含めて美しい母娘である。短編集『あにいもうと』は恋愛に限らず友情だったり家族だったりへの「好き」ってのが存分に味わえる。「魔法使いの娘」は娘が好きな母、母が好きな娘にホッコリします。
あと泣き顔ですね。全作通して女の子の泣き顔が多い中で、ベストの泣き顔を叩き出したのは「魔法使いの娘」の母娘でした。親子の「好き」が溢れ出る最高の泣き顔です。あ、モチのロンで彼氏&娘も良かったです。
可愛い女の子だった
ハルミチヒロ作品ってえっちというかセクシーな女性がヒロインって印象だったんですけど、『あにいもうと』のヒロインは全員が中学生か高校生の可愛らしい女の子でした。これがまた良かったんだ。心の深い所まで切り込んでくる系の作品で女の子が心の琴線に触れてきます。可愛さと儚さが同居している。
全体的に外れの話が1つもない極上の作品集でした。どれもこの続きが読みたいと渇望する話の膨らまし方ですし。前作『夜をとめないで』含めて超お勧めです。ハルミチヒロ先生は最高の短編描くね。
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