傑作だ…。
水上悟志先生の『水上悟志短編集「放浪世界」』とシリーズ連載(?)『二本松兄妹と木造渓谷の冒険 』が発売されました。どちらもお勧めの作品です。2018年がはじまって早々で今年の漫画でナンバーワンなんじゃねーかと確信してしまう程度には最高だったね。
『二本松兄妹と木造渓谷の冒険』は、ドタバタコメディの冒険ファンタジーでありつつ、締めるところは締めて、グッとくるエピソードまであります。シリアスとギャグのバランスが良い感じ。設定もキャラも多い中で分かりやすく、うまくまとまってました。
で、特に個人的に心の琴線を鷲掴みにしたのは短編集「放浪世界」なり。
うひゃー、ええもん読んだ。至福。漫画読みはこれだから止められんのじゃよ…。
少年の頃、世界の全てだった団地…でもそこは…!!?出口も入口もない虚無の旅…その先に待つ衝撃の真実とは…。水上SFの新たなる金字塔「虚無をゆく」を含む全5作収録の待望短編集!!
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水上悟志先生っていえば『惑星のさみだれ』のように熱い少年漫画的な側面が面白いのに加えて、「すこし・ふしぎなSF」の魅力を濃縮したところも見どころの一つでしょう。今回の短編集「放浪世界」も様々なテーマとアイデアが満載です。
そういえば、ぼくは子供の頃から藤子・F・不二雄先生の『SF短編集』が大好きだったんだけど、まさに水上悟志先生は藤子F先生のような「少し不思議なSF」の楽しさを今に伝える漫画家やねぇ。少年が、おっさんが、目をキラキラ輝かせて夢中になってしまうSFの良さがぎっしり詰まっていました。
藤子・F・不二雄イズムはここにある!
水上悟志短編集「放浪世界」
(竹屋敷姉妹、みやぶられる)
収録されてるのは「竹屋敷姉妹、みやぶられる」「まつりコネクション」「今更ファンタジー」「エニグマバイキング」「虚無をゆく」の5本。人によって当たりハズレの話があるかと思いますし、実際にありますが、どの作品も「よくこういう事を思いつくな…」って発想と着眼点に関心しきり。
「竹屋敷姉妹、みやぶられる」は誰にも見分けられない双子の姉妹が頻繁に入れ替わって生活する中で、1人の男の子にズバリ見破られて…というもの。ラブがコメる雰囲気でを漂わせ、じつにこそばゆい!あまずっぱい!
ちなみに、後書きでは以下のように…。
ただ双子のメガネっ子かわいい、というだけで描いた読み切り。この双子で連載できるか聞かれたけど、単行本一冊分も描けることないので、諦めました。
えー!続きが読んでみたい!
まあ、先を見せないからこその良さはあるとは思いますが、やっぱり「この先どうなっちゃんだ?」って気になるマン。
個人的に水上悟志節ってのは「熱い王道少年漫画」「すこし・ふしぎ」に加えて、ニヤリングできる「ラブがコメる」ことの3つだと思っております。「竹屋敷姉妹、みやぶられる」の双子ちゃんは、完全にアレでしたもん。色を知ったな!と。
清々しい終わり方だったけど、これどう見てもさ…。
ドロドロになる可能性があるよ!(続き読みてー)
「今更ファンタジー」
(今更ファンタジー)
あと、個人的なお気に入りは「今更ファンタジー」。
ある日、老婆から3つの願いを叶えてくれる魔法のランプを貰った中年男性。とはいえお金関係と恋愛成就はNG。ランプの精に勧められるがまま「子供の頃の夢を実現する」ことに…。
そんなわけで、子供の頃に妄想した中二病的な設定が全部乗せで世界を救うことになる37歳(妻子持ち)。自分の中の黒歴史をどう成仏させるのかって大変深いテーマでした?(なぜか疑問形)
今風なSFのテーマとアイデアぎっしり詰まっており、それでいて見事にまとまってオチまでついるってんだから恐れ入った。中年の冒険ファンタジーはバカバカしさ全開でありながら、読み終わった後に残る余韻が心に染みます。いい話だったなー!
「虚無をゆく」
(虚無をゆく)
そして傑作すぎて震えてしまったのが「虚無をゆく」なり。
なんと短編作品なのに74ページの大ボリューム。作者も描くのに4ヶ月かかったと後書きで述べてましたが、それぐらいじっくり描いたんだと納得の出来。まじですごい作品だったよ!まじでとんでもない作品だったよ!まじで超おもしろかったよ!(←語彙力)
まず、最初の設定からぶったまげたね。
主人公の少年・ユウは団地でのほほんと幼なじみのお姉ちゃん(アイちゃん)たちと暮らしていたかと思ったら、実は巨大ロボに町がまるまる入ってて、巨大ロボ(盤古)は、怪魚と呼ばれる宇宙空間を漂う敵と戦っているんでした。出だしから「何じゃこりゃー!」でしたよ。
読んでる最中の「何じゃこりゃー!」感がとにかく素晴らしい。それを連発で目まぐるしく展開させていくストーリーラインは圧巻の一言です。「どんでん返し」の数々で、飽きを覚えさせず夢中になるってもの。
さらに、後で判明する新事実によって、なんてことなく描かれてたいたエピソードの数々が、実は壮大な伏線だったと判明していくもんで痺れるわ…。物語構造の素晴らしさにゾクゾク&ドキドキ&ハラハラさせてくれる。
巨大ロボの中に町があって敵を倒して宇宙を彷徨っている…という、一見するとインパクト重視な、壮大過ぎてバカバカしいお話から、どんどんシリアスに、どんどん真面目に、どんどんヒドイ(褒め言葉)ことになっていく流れかとにかく素晴らしい。目が離せないよ!
さっき、水上悟志先生は藤子・F・不二雄イズムがあるって言ったけど、同時に手塚治虫イズム(特に鉄腕アトムのテーマ)を今に伝える作家でもあると思う。ロボットに心が有るか無しかによろしく、AIに感情はあるのだろうか…。
機会だって生きてるんだ…
他にも、いい塩梅で現代社会を風刺してるように見える箇所は「虚無をゆく」だけでなく様々な短編作品の中でアプローチされてました。どんな角度で世間見てんだよ!
私はここまで両氏の「隠れた壮大なテーマ」「少し不思議なSF」を受け継ぎ、尚且つ現代風に昇華できる漫画家は水上悟志先生だけしかいないと言い切りたい!(きっぱり)
それぐらい素晴らしかった。
水上悟志短編集「放浪世界」は、「虚無をゆく」は大傑作である!と声を大にして叫びたいです。特に「虚無をゆく」は、最後に号泣しながら読み終わって、感謝しかなかったね。水上先生…やっぱあんた最高だよ!
終盤の、全ての真相が判明し、すべてをやり切った後の…幼なじで幼少期からずっと過ごしてきて、アイお姉ちゃんとのやり取りには、ええ年こいて号泣ですよ。
アイお姉ちゃん…(´;ω;`)ブワッ
全ての謎が明かされた後の「アイお姉ちゃん」とのやり取りは、アレコレは、そりゃ泣くよ。号泣だよ。感動だよ。ああ、全てが終わったんだ…ってね。
だ・け・ど!
最後のラスト1ページまで読んで、考えが変わりました。これは終わりじゃない!はじまりだ!」と。そう思えるぐらい「先」があったのです。高田延彦の引退試合風に言えば、「終わりだと思わないでください!自分にとってはこれがスタートです!」だよ。
そう!この漫画で最高だったのは「終わりでない!はじまりだ!」って要素ですね。救いが何も無かったのに、それでも読み終わった後に「明日があるさ~♪」って口ずさんじゃんぐらいに、明日がある!未来がある!…そう思わせくれる締め方だったのだが名作と確信させ、読了後の気持ちよさですわねぇ。
SF小説家の新井素子先生は藤子・F・不二雄先生のSF作品群を「救いがある」と評してました(「藤子・F・不二雄大全集 SF短編 (2)」収録)。いわく藤子F先生の「少し不思議のSF」は「サイエンス・フィクション」と「少し・不思議」だけはないと。それは…。
藤子さんのSF(すこし・ふしぎ)に、僭越ながら、まったく勝手に、自分流の解釈を付け加えちゃいたいって思ってるんだけど…駄目、かなあ。
それって。
some forward(いくらか前向き)
完全に前向きな訳じゃない、寂しさや切なさは、もう、思う存分盛り込んである。でも、それだけじゃなくて…。いくらか”前向き”。どんなに哀しくても切なくても寂しくても、でも、どこかが、何かが、いくらか、前向き。
すこし、不思議で
いくらか、前向き
自分は、今まで藤子F先生評で、ここまで「うんうん」と思ったのもありません。その通りじゃないですか(たまに後ろ向きなオチ短編もあるけど)。分かります。分かりますよー!
ゆえに面白く、引っ張られ、夢中になる。それが「SF」!
その「SF」とは、「サエンスフィクフィクション」であり、「少し不思議」であり、「いくらか前向き」なのです。それこそ、脈々と続く大御所漫画家たちの「SF」です。このSFワールドは未来があるかんね!
それを現在に伝えてくれ、尚且つ最高の漫画を描いてくれたのが水上悟志短編集「放浪世界」!「虚無をゆく」!
未来へ、前へ…進むSF作品集でした。傑作だ!まる。
コメント
なんかヤマカムの新作紹介久々な気がする
読んでみます
これはいいぞー
ほしのさみだれもスピリットサークルも好きだったし、
読んでみますわー
「虚無を行く」は、lightの『R.U.R.U.R』のオマージュですね。
数百年を越える航海、主人公を守るアンドロイドたち、何も知らない少年主人公、アンドロイドに心はあるのか?
エロゲーマーの山田さんがその点に触れてないのは疑問です。
そうだったんですか…
lightの作品は『群青の空を越えて』『ディエス・レイ』ぐらいしかやってなく、ヌルゲーマーですみません。いつかプレイしたいものです。
作者がR.U.R.U.Rのオマージュだって言っているならわかりますが
>数百年を越える航海、主人公を守るアンドロイドたち、何も知らない少年主人公、アンドロイドに心はあるのか?
これだけの設定のSFならそれこそ星の数ほどあるのでは…
この人の短編はほんと面白い
もちろんさみだれもスピサも好きだけど
今巻だと双子のやつが個人的にすき
「虚無をゆく」は様々なSF作品の集合体って感じ。「月に囚われた男(邦題)」を思い出した。
水上悟志は身近なSFが面白いのに話を大きくしすぎて中身がスカスカしてる。
もっと勢い任せでいいのにイイ話描こうとしすぎ。
やっと読んだけどこの人の短編はいい味出してますね
あとデッサンに通ったからか女の子の雰囲気がちょっと変わりましたね
立体的になったというか…