超傑作「惑星のさみだれ」の水上悟志先生の、新装版「エンジェルお悩み相談室」、水上悟志短編集「宇宙大亭帝キガサンダーの冒険」が発売されました。
「エンジェルお悩み相談室」は元々芳文社から2006年に出版されたものの新装版。後書きにも「発売当時、増版もかからず埋もれ」と書かれており、絶版状態でした。
「惑星のさみだれ」で水上先生を知ったファンの間ではなかなか入手出来なかくプレミアまでついていました。この度の少年画報社からの再販は嬉しい限りです。カバーをめくれば、旧版の表紙にカラーまで収録と、旧版を持っていても買う価値あり。
簡単にストーリーを説明しますと…。
1話完結の連作で、しょうもない話からちょっといい話まで様々です。
※「マンガDX+」なら水上作品が無料で読めます。
バラエティ豊かな短編
ある公園のベンチで「天使さまお助け下さい」と3回唱えると、天使が現れ悩みを聞いてくれるという。ただしこの天使さま…筋肉ムキムキのむさいおっさんです。
天使はおっさん
胡散臭い天使の輪っかに、この風貌。
完全に出オチです。
がしかし、この出オチの設定とは裏腹に凄くいい話が多い。あ、ロリっ娘もいます。基本的に天使たちは人間の相談を聞くだけで何もしません。背中を押したりはするものの、願いを叶えるという事はしない。叶えるのは自分自身なのである。
脱サラしてラーメン屋をやりたい中年、金ない働きたくないの貧乏女、ひたすら前だけ向いて走り続けた男、死んだじいちゃん…様々な人が天使に相談して背中を押してもらう。
何か大事な事を思い出す。特に8話「思い残した」の死んだ爺さんの幽霊の話は感動する。思わず泣いてしまった。
8話「思い残した」
天使は願いを叶えるわけではなく悩みを聞くだけ。
基本的に何もしないし、何も起きないけど、夢を叶えるのも前に進むのも自分だと気付かせてくれます。途中から悪魔のコンビも出て賑やかになり、この2人も魅力的なキャラ。
悪魔の人事部長の「ぼくらの時は永い、結末を急いで得ようとなんてしなくていいんだ」、筋肉天使の「おれらの時は永い、なんかの答えや理由を急いで出すこたないさ」という台詞は深い。
色々と考えさせられます。
1話完結でテンポ良くサクッと読めるのに心に色々と届く。
良い話が多いので僕の心の琴線に触れまくる。お勧めです。
短編集「宇宙大帝ギンガサンダーの冒険」は一見幕の内弁当のように単品で見るとゴチャゴチャな作品の集まりなんだけど、全体でみると繋がっているという。こういうの大好きですね。後で何度も読み返したくなる。
ただワンパン入れるだけの熱血系ギャグに始まり、SHファンタジーや純愛(?)からホラーと様々なジャンルで楽しめます。そして1つに繋がった時の興奮は格別。宇宙大帝ギンガサンダーを巡る話なんですが、1作1作の読み切りとしても十分楽しめます。
僕が水上作品で大好きなのは「壁を超える瞬間」なんですよね。
キャラが覚醒する瞬間こそが個人的にキモだと思うんですよ。これが根っこにあるから熱くて感動する。今回の短編集も、主人公がやっぱりそれが共通していて最高なわけです。己の限界とか殻を破るとか境界線を超える時の描写が上手いというか僕のハートに伝わってくる。
それはバトルの「己の拳」に限らず、SFの「シャンバラのお絵かきネル」のネルも、ラブコメの「恋の鈴鳴る百鬼町」もそう、主人公は壁を越えていき、その瞬間の爽快感は半端ないし、漫画に引き込まれる。あと僕は水上先生の描くパンツ好きです(聞いてない)。
今回の短編集では「覚誕祭」がホラーと恐怖の異色作品。
宇宙大帝ギンガサンダーの冒険の誕生のエピソード。ちょっと切ないぶっ壊れた女が主人公。善か悪でいえば悪であるキャラのエピソードであり、悪い方向への覚醒なんだけど、ゾクッとさせられ引き込まれますます。悪キャラが壁を乗り越えるのを描くのも凄い。
んで、「彼の旅が終わる」はこの短編集の主人公でもあるギンガサンダーの終焉が描かれたわけですけど、ギンガサンダーも大きな壁を越えていく。悟るというか。
ギンガサンダー
水上作品のキャラには人生がある。自分の中にある壁とか殻とか境界線を飛び越えていくんですよ。その瞬間は僕の心の琴線を鷲掴みにする。良い短編集でした。
アワーズで掲載された読み切りだけでなく、ブラコンアンソロ「リキュール」に収録された「わにあに」、「TRIGUN-Multple Bullets-」掲載の「砂の惑星の民」、「惑星のさみだれ」完結小冊子収録の「太陽と世界」も、この短編集に収録されています。
特に「惑星のさみだれ」完結後の太陽にスポットを当てた「太陽と世界」は、「惑星のさみだれ」ファンで小冊子を手に入れられなかった方には歓喜もの。
「太陽と世界」は、本編完結後の太陽のエピソードなんだけど本当に良いんだ。
心からグッとくる。「惑星のさみだれ」の感動が蘇ってきます。
太陽
やっぱいい。
太陽が大人になるまで、いい大人になるまでを短いながらも凝縮させている。
夕日や三日月に影響を受け、笑って暮らす太陽に胸が熱くなる。思わず「惑星のさみだれ」全巻読み返してしまう衝動に駆られます。「見てるか?ロキ、ぼくは未来を手に入れた」とロキに語りかけるのに色んな思いが込み上げてくるってもの。最高だ。
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