『ランド』(山下和美)4巻読了。
謎は深まるばかりですね。先を読ませない引きとストーリーが表で効いてると同時に、初期に語られていた「この物語で描くのは山下和美が抱く、日本という国への不安」という壮大なテーマが社会風刺として裏で走っています。
杏の家が焼かれ、真理の心が壊れた混乱から7年の歳月が流れた。自分たちの住む世界のことを知り、大人へと成長してゆく杏とアン。人も変わるし「この世」も変わる。平穏な日々を過ごす彼女たちが知らないことは多くある。すべては「彼」の手の内にあることも、知らない…。「この世」を捨てる。「あの世」を見なくなる。文字を知る。そして、闇夜が怖くなる。世界が動く、第4巻!!
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4巻から時間軸は7年後になります。タブレットを手に入れた杏(どうやって充電してんだ?)は文字を覚えていき、今では「古事記」「日本書紀」「源氏物語」などを熟読するように。一方のアンは「あの世」へ行って現代文明に触れてすくすくと成長しています。2人の数奇な運命がどうなるか目が離せません。
7年後の杏とアン
7年後のアン
えええええ!?
アンの成長にビックリ仰天である。どえらい美人に成長していました。しかも和音に恋する乙女の表情までしてるし。その様子がこれまた可愛いこと可愛いこと。幼少時はビジュアル的に「杏>>>アン」だったのに。分からないものですね。
いやはやなんとも。面白い構図でもあります。アンは山で育って野生児でしたが、今では杏と文明的な立場が逆転しちゃっています。いまどきのいい女になってしまった。逆に杏はタブレットで文字や物語に触れてるけど畑仕事がよく似合うし「あの世」に染まったいる印象です。
『ランド』は『進撃の巨人』や『約束のネバーランド』と同じように、閉鎖された場所(この世)で過ごす人々を描いた作品です。「この世」は昔の日本のような描写ですが、外の世界「あの世」は現代文明(今の日本よりもっと未来っぽい)が栄えています。その対比が素晴らしい。
徐々に明かされる「あの世」と「この世」の秘密が先が気になる吸引力ともなってるし、読み進めればどんどん謎が解けていく快感もあるけど、次々と新たな謎も出てくる。深読みや裏読みを誘う描写も多数。たまらんわい。
ランドとは何なのか
ランド株式会社
今までは閉鎖された世界「この世」を、和音たちは「あの世」からランドと呼んでいました。「ランド=この世」って言い回しで。そしてランドは企業でもあるとも。で、本当に企業でした。「ランド株式会社」が運営していました。ランドとは会社の名前でもあるのか。
しかも、あくまで一企業が秘密裏にやっている様子なんですよね。「あの世」で一般の人々はランドが運営(実験?)してる「この世」を知らないようです。アンの姿に一般の人は驚いてたし。和音自身も普通に職質されてるし。「株式会社ランド」は何の為にこんな事をしているのか。法律的に企業がやるにはアウトの事を内緒でしてるってことでいいのか。
とはいえ、和音はランドを「あの世とこの世を支配するランド」とも述べている。どういう意味だろうか。「この世」を支配するは理解できるけど、「あの世」ではあくまで一企業で一般の人に内緒でやってるように見えるが…。政府とか公認なのか。謎である。
和音と天音
和音と天音
この漫画の狂言回しであり重要なキャラであるのは、和音と双子だと思われる天音である。「この世」と「あの世」を自由に行き来できる和音は存在自体が意味深ですし。片割れ(?)の天音にいたっては「ランド株式会社」の社長です。阿比留天音と名乗ります。
4巻まで読んで最大の謎は、阿比留天音は本当に過去回想で出てる天音なのかってことでしょう。本当に双子の天音と和音だとしたら、年齢がおかしいんです。天音はもうヨボヨボのジジイなんですよね。和音はアンが乙女顔しちゃうぐらいイケメンで若いし。
双子なのに、なして和音は若くて天音は年老いてるのか。謎すぎる。また、「この世」の支配者・蓮華は和音に対して意味深なことを述べてもしました(27話)。
子どものふりして…おじさんのくせに
蓮華がどこまでこの世界を把握しているのか分かりませんけど(母親が不死だったと信じてる様子)、和音に対して「子どものふりして…おじさんのくせに」と述べておりました。和音は自分は15歳だと言ってるけど、そしてら双子の天音が大企業の社長でヨボヨボの爺さんってのは矛盾しちゃうような…。
和音は年を取らないのでしょうか。本人の自己申告「15歳」がガチだとして7年後の22歳でも姿がまったく変わっていないし。まあ15歳から22歳になってもそれほど見た目の変化は無い場合もありますが。でも、天音と双子だとして、尚且つ蓮華様の「おじさんのくせに」は意味深ですよね。
和音と天音は幼少期に子供だけの「こどもの町」を計画しており、超高齢化社会のニュースを聞いて大人も必要と結論してました。その延長線上で閉鎖された世界の「この世」を作ったのでしょうか。
また、この2人は3巻21話でも気になるやり取りしてました。
幸せを探す?
和音が「ここまでやればもういいだろう」「君が探す『幸せ』はあそこにはないよ」ともう十分じゃないのかという意味合いで天音に問いかけていました。
閉じられた世界の「この世」を作る実験(?)は最初、「幸せ」を探す目的で現代文明から切り離した「あの世」を作ったのでしょうか。天音は「幸せ」を探してたってことか。今ではそんなんどうでもいいって感じに見えるが。和音はあんまり乗り気じゃなさそうなのも気になるとこです。
やっぱ、和音と天音が最大のポイントでしょうね。双子、同じ歳だったのに明らかな年齢差があること。何の目的で「この世」なんて世界を管理してるのか。まだまだ謎だらけです。ストーリーや設定が純粋に先が楽しみすぎる。
作者は何を伝えようとしてるのか
人ってこんなに変われるんだ
この漫画は意識高い系作品で読者が何かを訴えかけているようでもある。そも大々的に「この物語で描くのは山下和美が抱く、日本という国への不安」って謳い文句ではじまりましたしね。作中ではこれでもかと社会風刺が効いてます。
例えば、「あの世」と「この世」の差、「この世」でも堀の中と外で明白に人々の暮らしに格差があります。「格差社会」を訴えているようでもある。でも、文明や金銭がある者が幸せかといえば決してそう描かれてない。逆に清貧を持ちあげてるわけでもない。
生きてる人の「死ぬこと」や「息苦しさ」といった不安を掘り下げているようでもある。杏にしても、知らない事を知りたい知的好奇心旺盛だが、知ってはいけない事や触れてはいけないものがあり、何でも知る事が正しいのか分からない。平太も「これでいいのか?」と生きてる世界に疑問に思ったり。
「この世」の住民がまわりの空気や雰囲気で流されてリンチする様はネット社会を揶揄してるようでもある。4巻で杏が述べた「人ってこんなに変われるんだ」は奥が深い。今の穏やかさも不穏と表裏一体のようだし。
「日本という国への不安」が、説教臭く無い範疇でこれでもかと主張されている。いい意味で日々の生活に「ん?」と思わせること多数である。でも、結局何が言いたいのかがイマイチ見えない。それが面白くもあるけど。
何よりね。「不安」だけを描き立ててるわけでない。同時に「希望」も描いてるのが『ランド』の特長で個人的に好きな理由である。「日本という国への希望」も走らせてる。この先の未来にあるのは絶望か希望か。続きが楽しみです。まる。、
コメント
甚だ恐縮ですが、突然タッチパッドなどの現代科学が出てきた時点で、今までに築かれた世界観を壊されたような気がして、この作品を読むのをやめました。
おおまかなこの世とあの世の謎は描かれたけど
終着点がわからんね