『カナリアたちの舟』(高松美咲)読了。
連載で読んでたんですけど、まとめて読みたくて。胸にズシリとくる。なんとも不思議な読後感である。おそらく、誰にでも薦められる系ではないと思う。でも私はツボでした。アフタヌーンが好きな人が好きな感じです。まあアフタで連載してたんだけどな!
高校生の宇高ユリは、ある日の帰り道、空を覆い尽くすほどの巨大な飛行体と遭遇する。破壊される街、次々に殺されていく人間――気を失ったユリが意識を取り戻したのは、日常とかけ離れた異世界だった。そこで唯一出会った人間は、北沢千宙という男性。他に人間はいないのか、あれから友だちや家族はどうなったのか――帰りたい場所はまだ残っているのか。ふたりぼっちのサヴァイヴァルが始まる!
<1話の途中まで試し読みできます>
・『カナリアたちの舟』(講談社コミックプラス)
1話「その日」、2話「森」、3話「花」、4話「種」、5話「名前」、最終話「カナリアたちの舟」…と全6話で収められているので途中でダレることもなくスピーディーに物語が展開されていきます。世界観も好き。
ガッツリSF作品。
ある日、女子高生・宇高ユリが学校の帰り道に宇宙人が襲来。
そのまま気を失ってしまいます。気付くと見知らぬ森。そこで薬剤師・北沢千宇(ちひろ)という男と出会います。彼もいま起きたばかりだという。携帯の電源も入らず、辺りを探ってみると謎の文明や広大な自然。どうやら宇宙人に攫われてしまったようだ。
どこの星だよここ
夢か幻か現実か。まあ現実なんだけど。
突然、日常から切り離されてちゃうのであった。サラリとヒヤリとする非日常系。宇宙人に攫われてしまい、他に人はいないのか、どうやったら地球に戻れるのかを模索する。異世界で赤の他人のたった二人きりのサバイバルなり。
序盤はいきなり地球じゃない星にほっぽり出された2人の生活がメイン。対照的な2人の様子が良い。ユリの日常に帰るという希望を持った日々の過ごし方に対して、ちひろのどこか空虚で人生を諦めている様子の対比が効いてる。ユルいわく「最初から生きて帰る気なんてなかったのね」。地球での生活が楽しい青春に彩られたユリとクソみたいな人生を過ごしてきたちひろかなと思ったものです。
対照的な2人
前向きなユリと後ろ向きなちひろである。
「あんたがこの前まで描いてきた明日には不安以上の期待があったからだ。手放せないものと置いてきた後悔があるからだ。それも当然のように」というちひろの台詞が刺さる。読了後にこの辺りがかなり意味のあった台詞だと分かり、再読を誘う伏線が効いている。
2話「森」で、森一体を管理するシステムという機械に出会い自分たちが置かれている立場を理解する。もう地球へ戻るのは絶望的であること、自分たちの身体が今いる星に適応するためにかなり作り変えられていること、地球人を攫った宇宙人がもう居ないこと…。
流石のユリも色々と心が折れかけるんだけど、それでも前向きな様子はグッとくる。たまに見る夢が地球での日常生活というのも切なさを感じる。色々と自分たちの立場を理解して、まだ夢の中にいるみたいだけど、一生2人で暮らすことになったらどうしようと考えるも「以外となんとかなる…のかな?」と考えるユリにはニヤニヤしてしまう。
地球でちひろとデートしてるのを夢見たり。
今まで、夢で見てたのが「今までの地球での生活」だったのに「これからの地球での生活」になってるし。これはラブがコメる雰囲気ですよ!
ラブがコメる雰囲気である
思わず、キタキターってガッツポーズしましたとも。
ユリめ…一緒に過ごす内にちひろに惹かれてきているな!なにこの甘い雰囲気!重い重い話が展開されている中で見せる甘さは格別だな。ラブがコメり出す予感がビンビンするってものですよ。赤面するユリの可愛さに思わず頬を緩めて、異世界でのボーイミーツガールに胸を躍らせ期待したもの。
だがしかーし!
これSF漫画なのよね。
期待は完全に裏切られることに!まあいい意味でだけど。
甘くなりそうな中でユリはあるものを発見し…そこから物語はジェットコースターのような急展開一直線なのであった。意表を突かれて、思わず、ええええぇぇぇぇ!?と叫んでしまいますとも。ゾクゾクするよ。終盤の2人の掛け合いは圧巻。
また、さり気ない描写が心地よい。
個人的にユリが百合似てる花を見つけて、自分の名前がユリだから百合の花が好きだと言ってちひろは聞いてなかったけど、実は聞いてたっていうのはさり気ない名場面だよね。
百合の花が好き(聞いてなかった)から実は聞いてた
終盤に「連れていきたい所があって」と言ってた場所が百合に似た花畑だと判明した時は胸が熱くなったぜよ。陰で花畑を作っていたんかいな。一読して真相が判明した後に、もう一度違う立場に立って読むと、また新たな味わいがあります。
主要人物はユリとちひろだけで、ほとんど2人きりの世界。
登場キャラが少ないと物語として面白みを出すための引き出しが重要になってくるんだけど、謎の惑星にほっぽり出されたという設定やプロットで読ませる読ませる。途中からページをめくるのが止められない止まらないかっぱえびせん状態でした。ラストにモヤモヤする事もあるけど、なんともいえない余韻が残る。詩的でもあったSFである。まる。
カナリアたちの舟 / kindle 高校生の宇高ユリは、ある日の帰り道、空を覆い尽くすほどの巨大な飛行体と遭遇する。破壊される街、次々に殺されていく人間──気を失ったユリが意識を取り戻したのは、日常とかけ離れた異世界だった。そこで唯一出会った人間は、北沢千宙という男性。他に人間はいないのか、あれから友だちや家族はどうなったのか──帰りたい場所はまだ残っているのか。ふたりぼっちのサヴァイヴァルが始まる! |
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