『乙嫁語り』(森薫)10巻読了。
はぁー(感嘆)。すっげー良かった。表紙はアミルとカルルクのセットです。基本的に「乙嫁語り」ってタイトルなのだからお嫁さんのみが表紙を飾っていたのですが10巻にしてはじめて夫婦揃い踏む。それも納得の内容です。
第10巻の前半はカルルクが"男"になるべく修業をする"男修業"編。アミルの兄が暮らす冬の野営地へ行き、アゼル・ジョルク・バイマトの3人から鷹狩りを学びます。後半はアンカラへの旅を続けるスミスへ視点が移り、案内人アリとともに旅の様子が描かれていきます。
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相変わらず徹底的に拘った描き込みを堪能します。動物や衣装や背景をじっくりと見て楽しめるし、10巻はアミルとカルルクの夫婦がひとつの節目を迎えたようでもあります。
『乙嫁語り』10巻
アミルとカルルク
カルルクが年上のお嫁さん・アミルに劣等感を持って必死に一人前になろうとする気持ちが痛いほど分かる。若くして結婚したからこそ、アミルに男として成長した姿を見せたい男心。その気持ち分かりますよー!
カルルクが男となろうと必死で頑張る姿も良ければ、それに対するアミルの嫁っぷりも控えめに言って最高でしたね。はい。こんな言い方もアレですが「おねショタ」がここに極まっていました。
『乙嫁語り』を誰かと語る時って、「絵が緻密だー」とか「19世紀中央アジアを体現してるー」とか、そういうボンヤリした事でほとんど中身を話すことってなかったんですよね。でも、ここ最近は「〇〇のシーンが良かった」とか「〇〇の台詞がグッときた」って具体的に熱く語ってることに気づく。
10巻はそういう具体的に語りたいイベント盛りだくさんです。
特にグッドなのが2人が抱き合うシーンでしょう。
抱きしめ合う
なにが良いって立ったまま抱きしめ合ったことですよね。
『乙嫁語り』は抱擁シーンが特に好きなんですよ。
で、アミルとカルルクも何度も抱きしめてるんですが、きちんと2人が抱きしめ合うのは寝てるか座ってる時なんですよ(多分)。立ったまんまでの抱擁は基本的にアミルがギューって力強くカルルクを抱擁するか、カルルクが夫っぷりを見せつけるか。
立った状態の抱擁
立ってる時の抱擁ってどちらかが一方的だったんですよ。寝てたり座ってる時は普通に抱き合うのに。カルルクはアミルとの身長差とか諸々を気にしてたのかなって(深読みしすぎかな?)。そんな2人が立ったまま抱き合っていたのは最高の名シーンです。
それにしても、アミルは1話の出会いの心境を語るなど、この夫婦は話が進むにつれてどんどん味わい深くなりますね。ホッコリできる最高の夫婦やで。心からいつまでも幸せでいてほしいと思う。
なのに!
10巻の急転直下の真実には「あぁ…マジかよ…」ってなるよね。だってさ、なんとなく抽象的だったことが紛れもない歴史の1ページだったと判明してしまったからなり。
歴史の1ページだった
具体的に見えてしまったロシア帝国
10巻はアミルとカルルクの心が温かくなる夫婦愛を見て「いつまでも幸せでいて欲しい」と読者が願ってたら、スミス視点の物語で現実というものを突き付けられます。
今まで作中では「19世紀中央アジア」としか説明されておらず、カスピ海周辺に住む人たちの嫁をテーマに、具体的に何年なのかボカして、この時代の生活を描いてるんだなーって思ってたのに。そういう物語なんだって認識だったのに。
スミス編で歴史を描いてしまった。「19世紀中央アジア」って抽象的なものから具体的なものに変わってしまった。今まで『乙嫁語り』が正確に何年なのか分からないようにしてたのに分かってしまったのである。
友人ホーキンズがスミス母に宛てた手紙では「クリミア半島で起こった先の戦争」とクリミア戦争(1856年終)の後だと描写されてました。さらに「ロシアとトルキスタンは戦争になるぞ」と、まだ露帝がトルキスタンに進出する前(1864年)である事も判明。
つまり、『乙嫁語り』は「19世紀中央アジア」でなく「1856年~1864年の間」という限定された狭い範囲で、同時にとんでもない事実が判明してしまう。何が言いたいのかと言えばロシア帝国は本当に中央アジアへいわゆる南下政策を実行するってことである。
ロシア怖い…
確かにロシアの陰は作中で何度も何度も描かれてました。とはいえ、それは北にロシア帝国があるし人々はビビッてんだなーってふわっとしたものでした。なのに完全にリアリティ増してしまった。もうすぐ来るぞー!
オスマン帝国がロシア帝国に敗れ去った露土戦争(オスマン・ロシア戦争)は1877年開幕なので、この辺りは当分大丈夫でしょう。がしかし!ロシア帝国の南下政策はバルカンは様子見なのに中央アジアは「ガンガンいこうぜ!」でありまして、ぶっちゃけカスピ海周辺に進出して礎を築くのが1869年。正式に露帝領になるのは1873年。
・今描かれる『乙嫁語り』の年代は1856~1864年の出来事
・ロシアがカスピ海周辺の併合に乗り出すのが1869年の出来事
露帝に蹂躙されてこの辺が領土となるのは避けられない事実なわけでして。しかも描写からロシアのトルキスタン進出は秒読みっぽいし…。今の『乙嫁語り』は1864年よりちょい前っぽいんですがががが。
あっ…(察し)。これガチのマジで露帝が来るやつじゃん(いや知らねーけど)。ボッコボコにされちゃうやつじゃん。ロシアが来たらハッピーエンドが見えないんですけど…。いや!信じよう!(←ハッピーエンド至上主義者)。
これから大人になるんでしょ?
男らしくなるでしょう?
『乙嫁語り』がどこまで描かれるかまだ何とも言えんがカルルクの成長が気になるよね。ここまで歴史的な背景を明かしてただの「おねショタ」で終わるとも思えんす。
作中の年代がほぼ判明し1864年の直前っぽいので、ロシア帝国が来るまで数年あるわけで。その数年こそカルルクが男の大人の階段昇るのではないかと思ったり思わなかったり。なんか一気に19世紀中央アジアってボヤけた時代設定の生活模様から歴史漫画っぽいきな臭さを感じた10巻でした。まる。
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