「空が灰色だから」の阿部共実先生の新作「ちーちゃんはちょっと足りない」「ブラックギャラクシー6」が発売されました。
「空が灰色だから」では心臓を抉られるようなエピソードで心がざわざわしましたからね。
今回の「ちーちゃんはちょっと足りない」も「ブラックギャラクシー6」もね。読後に色々と感じるものがあるのです。どっちを先に読んだかで受け取り方変わりそう。
阿部共実1巻完結漫画
私は「ブラックギャラクシー6」→「ちーちゃんはちょっと足りない」の順番で読みました。
「ブラックギャラクシー6」
まず「ブラックギャラクシー6」は良い青春物語であった。
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ブラックギャラクシー6 kindle:ブラックギャラクシー6 著者:阿部共実青春したい女子高生、 通称ギドラが謎のサークル "ブラックギャラクシー"を設立。 男女6人(プラス1)の学園コメディ! |
「ブラックギャラクシー6」は青春したい女子高生・ギドラ(あだ名)が中心となって謎のサークルブラックギャラクシーを設立させ、男女6人の青春を描く学園コメディである。同時発売の「ちーちゃんはちょっと足りない」が心を揺さぶられまくるのに対して、こちらはコメディに特化した青春物語で安心して読めます。
個性豊かに6人のキャラがなんのかんので仲良くなっていく人間関係は良い。
個人的に一番好きなキャラはカレルナ(枯木流那)かな。
最初は何事も面倒臭がってたのに、いつの間にか世話やきのポジションになる様子がなかなかどうしてよ。
そんな彼女の魅力が満載なのが21話と最終話である。

21話のカレルナ
21話「どうしようもなき群がりクズシックス」では、ふと自分は面倒臭がり屋のはずなのに、実は自分は世話好きの真面目人間なのではないかと「はっ」と気づくのであった。
カレルナは面倒臭いと口で言ってるだけなのは随所で分かる。
最初は面倒臭いと言いつつもギドラの部活作りに付き合ったのにはじまり、最初から一貫して世話やき&フォロー担当な、めがっさ良い子なのである。

超良い子のカレルナ
サラッとのギドラをフォローしたり、中学時代はみんなが飽きた熱帯魚を「めんどくせえ」と言いつつ世話したり、ハリセンの頭をナデナデしたり…と、最初からずーっと面倒見の良い娘です。ほんまええ子やで。
そんな彼女が21話「どうしようもなき群がりクズシックス」では「あれ?」と自分は真面目な人間なのではないかと、自分は面倒臭り屋だったはずなのに…と悩む。
からの!
やっぱり自分はズボラな人間だったんだと安心する流れが良いっすなぁ。

安心するカレルナ
個人的に阿部共実作品のキモは自我の崩壊にあると思う。
自分はこう思ってるけど相手はどう思っているのか。それを考えてしまい頭の中でグルグル回っている過程が胸に刺さりまくるわけ。
んで、「ブラックギャラクシー6」はカレルナがそういうポジションなんだけど、そのスパイラルに陥っているのに綺麗な着地をしました。白い阿部共実であったか。
なんのかんのでギドラもカレルナも良い仲間に出会い青春してました。
そして「ちーちゃんはちょっと足りない」。
ちーちゃんはちょっと足りない
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ちーちゃんはちょっと足りない kindle:ちーちゃんはちょっと足りない 著者:阿部共実「はぁ私たちはなんだか私たちって」いつも何かが欲しくって。中2女子・ちーちゃんとナツの日々日常。「空が灰色だから」の阿部共実、初の長編新作。 |
こちらもサクッと読了。
うわあああああああああ(←読後真っ先の感想)。
なんだよこれは!
なんちゅうものを読ませてくれるんや。
はっきり申して「ちーちゃんはちょっと足りない」は、間違いなく傑作の部類に入ると思います。でも、万人に進められません。
だってさ、読後にモヤモヤっと胸くそ悪くなるからね(褒めてます)。
黒い阿部共実である。
ちーちゃんという、ちょっと頭のネジが2~3本飛んでる子を見守る物語…そう最初は思っていたんですよ。
ところがね、話が進むにつれて、世の中の不平等さとか自分の置かれるヒエラルキーの低さや劣等感や欲求感などを頭のなかでグルグルと反復し出すナツに焦点を当てて語られ出し、ウヴァヴァヴァヴァと叫びたくなるというもの。
ウヴァヴァヴァヴァ
最初は平和な日常物語だったのに。
ある事件がきっかけで暗転。
その世界が一変してわっていく様よ。「空が灰色だから」でもしばしば世界が変わる様子が描かれてたけど、さらに描き方や表現に磨きがかかっている。
ぶっちゃけ世界はまったく変わってなく、自分が変わってるだけなんだけど、まあ巧みに描くものだから世界変わっちゃったと思えるよね。
「ちーちゃんはちょっと足りない」はフラットに読むとナツが自業自得で勝手に落ちていくわけなんだけど、特筆すべきはフラットに読めないことでしょう。
読めばほぼ確実にナツに感情移入や自己投影しちゃうわけです。行き場の無い閉塞的な空気と自己&世界への嫌悪感は恐らく誰にだってあると思う。
こいつをフツフツと丁寧に呼び起こしてくれちゃうナツの心理描写の巧みさ。
これが本当に上手い。

フツフツと負のスパイラルに
出たー!
阿部共実作品の十八番自我の崩壊だー!
自分を客観的に見てしまい負のスパイラルに陥る。
こいつが僕は最高に共感しちゃうわけですよ。
よくさ、人生の成功者は「自分を客観的に見て~」とか一見名言のようなことを抜かすじゃないですか。
ビートたけしにしてもイチローにしても何が「自分を客観的に見て~」だっつーの。そんなの成功したからこそ言える上から目線である。僕は思うものです。
人というのは、上を見ればキリがない、下を見れば後が無い、自分を客観的に見れば死にたくなるのだ。
で、ナツは自分を客観的に見てしまい死にたくなるわけ。
凄く分かりますね。
そこから負のスパイラルに陥るんだけど、それが禍々しいほど共感出来ちゃうのです。
最終話では一見救われたようで、まったくハッピーエンドじゃないからね。
また、1話と最終話のラストはまったく同じ場所を歩くんだけど、色々と変わっているのが色々とアレっすわ。

最終話ラスト / 1話ラスト
同じ背景をバックに仲良く歩くの図。
でも全然違う。まずメガネっ娘の旭ちゃんがいなくなっている。
駐車場の「空車庫あり」の看板が無くなって車が埋まっている。
歩いてる位置も1話からちょっと進んでいる。
1話が5月某日(何日なのかは判断できん)~最終話は6月16日。
たった1ヶ月くらいの物語なんだけど、ダイ大の3ヶ月の物語並に色々とあったのだ。
変わっているのだ。
でも変わらないものもある。
ちょっとセンチメタルブルー&ほっこりするっつーの。
ハッピーエンド?バッドエンド?分かりません。
この読後感は言葉に出来んね。でも間違いなく傑作であった。
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ブラックギャラクシー6 kindle:ブラックギャラクシー6 著者:阿部共実青春したい女子高生、 通称ギドラが謎のサークル "ブラックギャラクシー"を設立。 男女6人(プラス1)の学園コメディ! |
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ちーちゃんはちょっと足りない kindle:ちーちゃんはちょっと足りない 著者:阿部共実「はぁ私たちはなんだか私たちって」いつも何かが欲しくって。中2女子・ちーちゃんとナツの日々日常。「空が灰色だから」の阿部共実、初の長編新作。 |
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