『それでも町は廻っている』14巻が味わい深いったらない。
もともと『それ町』って何度も読み返したくなる味があったんですけど、14巻はさらに輪をかけて深みがあるのです。それと同時にショックを受けてしまった。
歩鳥が進路を真面目に考えたり、エビちゃんの可愛さにペロペロするなど見所満載ですが、14巻のテーマは「似たもの」「似て非なるもの」と後書きで書かれている通りのエピソードが多数。ドッペルゲンガーの話や、歩鳥と室伏涼が同タイプとか…。
とりわけ、静ねーちゃんと歩鳥の関係がメインである。以下、ネタバレ風味。
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14巻のみどころ!
108話「夢現小説」と111話「夢幻小説」のでは10年前の歩鳥と静ねーちゃんがはじめて出会うエピソードが描かれる。
初めて出会う
歩鳥が静ねーちゃんの小さい頃によく似ていると知り合い、ミス研でのやり取りで一つのひらめきを起こす。「自分で書いた小説をそうとは知らない自分に読ませたい」とのこと。
それで率直な感想を聞きたい…しかし、そんな事が可能だろうか?自分で書いた小説を、書いた記憶を無くして読むなんて不可能であろう。そこでピンと、自分に似ている歩鳥を…と考える静ねーちゃん。
自分が書いた小説を読んでくれる自分。
自分が書く小説を見つめる冷静な自分、それを具現化したような目…。
静ねーちゃんの歩鳥育成計画である。
108話「夢現小説」で初めて歩鳥と静ねーちゃんが出会ったわけですけど、2度目の接触が3巻26話の「少女探偵誕生」である。
26話「少女探偵誕生」
知らない人と言う歩鳥に対して「この前、資源回収一緒にやっただろ」と返す静ねーちゃん。このやり取りからして、今回の108話「夢現小説」ではじめて出会ってから2度めの接触だと伺えます。26話では歩鳥を家へ招待し自分の書いた推理小説「丸子商店街の怪事件」を読ませるのであった。
今を去ること約10年前、歩鳥は探偵への道を始めたわけです。108話「夢現小説」を読んでから26話「少女探偵誕生」を読み返すと、一層の味わい深さがあるね。
なんで静ねーちゃんが唐突に「ミステリーって知ってる?」と振ってきたのか。なんで後半読ませず歩鳥に推理させたのか。なるほどなー。全てはもう1人の自分、自分が書く小説を見つめる冷静な目を具現化させる為だったのか…と。
という感じで、『それでも町は廻ってる』は新しいエピソードを読む度に過去のエピソードがより一層面白く味わい深くさせてくれるのである。まさに噛めば噛む程の味わい深さです。何度も読み返せる面白さがある。
んで、14巻で個人的にキモといえるのが111話「夢幻小説」なのです。108話「夢現小説」と完全につながっているというか「対」の関係のエピソード。もし、歩鳥が生まれなかったら…例えばそんなifの世界。
111話「夢幻小説」
結論から述べると歩鳥が生まれない世界でもタイトル通り「それでも町は廻ってる」である。思い返せば、2巻13&14話で「それでも町は廻っている」というサブタイがありました。
歩鳥が死んでも町は廻っていましたが、まさに「それでも」という感じ。今回のもし歩鳥が生まれなかったら…というifのパラレルワールドでは、「それだから町は廻っている」というタイトルが付いてもおかしくないうぐらい町が上手く廻っているんですよ。
妹のユキコ(この世界では歩鳥)にしても、アホ丸出しの幼さというか頼り無さが消え、しっかりした長女となっているし。真田とタッツンもそう。歩鳥がいないほうがうまい具合に町は廻っている。ビビったね。一番ビックリしたのは紺先輩だ。
歩鳥がいない世界の紺先輩
「双葉ちゃんは高校の時、不投稿気味だったけど…針原春江ちゃんのフォローで第一志望の大学に受かって大学通いながらシーサイドでアルバイトしてる」
紺先輩といえば、卒業後の進路が謎に包まれていましたが、歩鳥のいない世界では針原のフォローのおかげで第一志望の大学に受かっているんだとか。元の先輩の紺先輩は第一志望の大学に落ちてるからね。
紺先輩は第一志望堕ちた(73話)
紺先輩は3年の時に遊んでたから第一志望の大学に落ちた。その後の紺先輩が第二志望の大学行ったか、浪人してるか、イギリス行ったかは謎なんですけど。
んで、この歩鳥がいないifの世界ではちゃんと第一志望の大学に受かっているのだ。どう見ても歩鳥のせいで第一志望の大学落ちました。本当にありがとうございました。
歩鳥がいない方が上手くいっている。第一志望の大学に受かるだけでなく、シーサイドでバイトしてる姿は人見知りを克服し、しっかりした真人間となっている。
だがしかーし!そんな紺先輩など、俺が大好きな紺先輩ではないのだ。俺が好きな紺先輩はね…歩鳥がいないと何も出来ない泣き虫で甘えん坊のダメ人間の紺先輩なの。こんな真人間の紺先輩など紺先輩じゃない!魔法の粉のかかっていないハッピーターンのようなものです。
静ねーちゃんもそうだ。
歩鳥も違和感感じてるけど、小説の探偵役のような迫力がない。もっといえば、元の世界ではシーサイドで働くには腹黒すぎる面構えでばーちゃんに断られてるからね。
静ねーちゃんは接客向いてない
静ねーちゃんの顔は客を小馬鹿にしてるように見えるそうな。
まあ、その通りで静ねーちゃんはどこか人を食ったような何でもお見通しの上から目線の面構えである。
でも、歩鳥が生まれなかった世界では普通にシーサイドでバイトしている。客を小馬鹿にした面ではないのだ。何よりも108話「夢現小説」で描かれた歩鳥との出会い~ミス研の一件が無ければ小説家になっていない。
まあ、静ねーちゃんは歩鳥がいる世界とパラレルワールドのどっちがいいかは一概には言えないけど、他の面々に関してはハッキリ言える。歩鳥が生まれなかった世界のほうがまっとうな人間になってる。わーお!歩鳥生まれないほうがマシだよ。ユキコもしっかり、真田とタッツンも順調、紺先輩も真人間。
だがしかーし!
そんな丸子商店街はつまらん。確かに、歩鳥がいないほうが一見するとまっとうな人生を歩んでる。歩鳥はトラブルメーカーで掻き回し屋だからね。でも、アホのユキコのが好きだし、「タッツン→真田→歩鳥」の流しそうめんの恋愛模様が好きだし、ダメ人間の紺先輩のが好きだね。
歩鳥がいないほうが上手く町は廻っている。でも、歩鳥がいたほうが上手くいかなくても面白いし味わい深い丸子商店街になる。だから声を大にして言いたい。歩鳥がいたほうが上手くいかなくても、それでも町は廻っている。まる。
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