どこかで見た/どこにもない風景。
僕の中で密かにpanpanya先生の作品が熱い。
『枕魚』が実に良い。この独特なちょっと不気味な不思議なワールド。
日常のあるあるが盛り込まれた妙に味わい深い世界が癖になる。ハマるのである。
前作『蟹に誘われて』からタイトル変更されてるけど、続編みたいな。まあ、前作知らなくてもまったく問題ない1話短編の内容である。
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・「蟹に誘われて」、この不思議世界に誘われて
今作『枕魚』に収録されているのは楽園連載、WEB楽園、さらに同人誌の作品までを収録している。
「NEWTOWN」「範疇」「east side line」「備品」「記憶だけが町①」「雨の日」「MY LOST SOCK」「地下行脚」「2014年8月18日の夢」「立ち方」「素人と海」「ニューフィッシュ」「プレゼント」「ゴミの呼び方」「星を見る」「始末」「親切ラーメン」「運命」「恩の行方」「街路樹のあとさき」「記憶だけが街②」「枕魚」
22本というボリュームである。
何か大切なものを思い出す漫画
「人生は旅」とはよく聞く。確かにそうでしょうね。
進学、受験、就職、転職、結婚、子育、引越、失業、昇格…何があるか分からない大変な冒険である。だがしかーし!「日常も旅」なじゃないかな。
そう思わせてくれるのがpanpanya作品である。今作『枕魚』も同様に、どこか分からない森羅万象に迷い込む。しかし、それは、ふとした日常の出来事や風景なのかもしれない。日常でふと思うあれやこれやとした日常を冒険する作品である(と私は思ってる)。
例えば「地下行脚」は最もたるものでしょう。新宿の地下に変わったピザまんがあるので入手するという話。そんなわけで、主人公の少女は新宿の地下へ旅立つ。
新宿地下街の大冒険
新宿の地下街なんて、よく迷いますよね?
そんな日常の当たり前の些細な出来事をメタ的に描くの『枕魚』である。それは、知らない街だったり、はじめて来た駅だったり、昔は知ってた町並みだったり、いつもの通学路で雨が降った時だったり…そんな日常でふと立ち止まると新たに気付くような事を冒険する。
そも、主人公の少女は名前すらない。この少女は何者なのか分からない。時に学生だったり、時にバイトしてたり、時に漁師の助手だったり、時にダラダラ過ごす若者だったり…。同じ顔の少女だが、1話1話でまったく別人なのかもしれない。この掴み所のない少女が読者を旅へ連れて行ってくれる。この少女はひょっとすると読者自信なのかもしれない。そんな追記体験
また、デフォルメされた人物に対比するように描かれる妙にリアルで少し気味悪い背景こそが、この作品の真骨頂であろう。「記憶だけが街①」「記憶だけが街②」はふと迷い込んだ街の薄気味悪さと哀愁漂う作品である。これがどうにも懐かしさすら感じる。
記憶だけが街
感じるのは不気味さである。
パブリックな空間における案内や店の看板がもの凄く気味が悪い。
確かに、いつもの日常の風景なら看板なんてどうも思わないが、道に迷った際の知らない町や道における看板ほど薄気味悪いものはない。僕はけっこう方向音痴なので、知らない道筋で迷った際に見える知ってる看板はちょっと恐怖すら覚える。そういう、感情をメタ的に描くから思わず頷く。追体験しちゃうじゃないの。
さらに、日常のなんてこと無い事も考えさせてくれる。
「親切ラーメン」では、親切な説明書付きのカップラーメンの話。カップラーメンなんて説明書なんて無いし容器に簡潔に作り方は書かれている。まあ、日常では読むことは無い。そこをピックアップする。一体、panpanya先生とはどういう着眼点をしているのかとビビるもの。
カップラーメンの説明書
目の付け所が唸らせられる。
これは本当にスゴイ。どういう目線でどういう思考回路をしているのかと圧巻すらしてしまいます。何気ない生活を立ち止まって考えさせてくれる。こういう目線の人がいるのか、と。
さらに哀愁すら漂う作風だからね。「ゴミの呼び方」「始末」「恩の行方」は、読後に少しセンチメタルブルーになる。寂しさがある。何か大切な事が日常にあるのではないかと思わせてくれる。本当に味わい深い。
キモは『枕魚』を読後に、僕と同じ感想を抱く人がどれだけいるだろうか。よく100人いたら100人の意見があると言うが、まさにそれでしょう。この漫画を読めば100人が全員違う感情を抱くと。
不思議と思う人も、不気味と思う人も、懐かしいと思う人も、楽しいと思う人もいると思う。
人によって、もっといえば読んでる時のテンションで感じ方が違う。なんとも言い表せない読書の旅へ連れて行ってくれます。まる。
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