「それでも町は廻っている」の石黒正数先生の新刊「響子と父さん」が10日ほど前に発売されました。いやーこれは、めちゃんこ良いです。マーベラスですよおおお。
どんな内容かといえば、イラストレーターの姉響子とちょっと困った父親を中心に、行方不明の妹と旅行好きの母親の一家、岩崎家の日常を描いた話なのですが、石黒先生が描くとここまで面白いのか、と唸らせられます。
読後の、もっと続いて欲しいという、後味の良さがマーベラスです。しかし、この親父の自由奔放な所は、少し憧れますね。しかも、たまに素晴らしい名言まで飛び出しちゃんだから。
響子と父さん
また、小ネタが実に素晴らしいです。
以前に、行方不明の妹に頭の怪我をさせられた傷が、響子が髪の毛を上げると傷が描かれたり。
響子の傷
こういう小ネタというか伏線が石黒漫画の真骨頂ですよお。
他にも、思わずニヤリとさせる伏線満載。読めば読むほど味があります。これはお勧めです。
また、以前にも説明しましたが、「それでも町は廻っている」は時間軸がバラバラに描かれているのがキモで、この「響子と父さん」も時間軸がバラバラなんです。
響子が結婚する予定の小泉俊夫。1話では響子がいい人と言っているのに、2話では恋人らしさの欠片もありません。まあ、フラグはきっちり立ててましたけど。5話では結婚の挨拶をしています。こんな感じで、時間軸で並べると以下のように。
2話「逆転将軍」
1話「響子と父さん」
5話「岩崎家の掟」
6話「おかえりなさい」
3話「妹と父さん」→4話「男の世界」の順だろうけど、これをどこに入れるかは各自の判断かな。時系列を明確にするものなし。しかし、味わい深いです。話は変わりますが、去年リュウコミックとして出た「ネムルバカ」を覚えていますか。
「ネムルバカ」を読んだ上で、「響子と父さん」を読むと、なるほどと言わざるを得ません。
特に「ネムルバカ」番外編の「春香と父さん」のダサい服を着るくだりは心温まります。
このダサい服を「ネムルバカ」では、よく着ていたいたのも最高すぎる。
で、「響子と父さん」を読んだ上で、「ネムルバカ」を読み返すと、燻製された味タマの如く、癖があってハーモニーでありながら濃厚な味になるのですよ。
で、「ネムルバカ」で駄サイクルに嵌って悩み、いきなり「春休み帰省しよう」と思いついたり、実家に帰る荷物にギターを入れなかったり。
ギターは実家に持って帰りません
玄人はこの辺の心情も考えるのでしょうか。
そして、「ネムルバカ」の先輩は、ひょんな事から、レコード会社からスカウトされて、自称アーティストから一気に売れるアーティストになれるという話がきました。世界がぐにゃっと歪み、寮で「大学やめて引っ越す」と荷物整理を始めます。「ネムルバカ」の7話「ゲンキデネ」です。具体的に言えば174ページと175ページです。
174ページと175ページ
美味しい話を聞いて、大学辞めて引っ越して行く…という、174ページと175ページの間が、「響子と父さん」の3話「妹と父さん」の回想シーン。後の(6話)響子の口ぶりから、家族と最後に会って、そのまま大学を辞めてミュージシャンになったとのこと。
インディーズバンドをやっていた春香が、実家にギターを持って帰らず、大学を辞めるのに、父親に「アテは…ない」と間を置いて、デビューの話を家族に話さなかった心情。「好きでやってるとか趣味だとか、そんなの誰にも認められなかった時の予防線でしょ!?今、そんなのいいから!」という台詞のなんと味わい深いことか。
んで、親父のありがたい話を聞いて…。
良い話を聞いて
「思い通りに、いかなかったけど楽しかったから良いかって話かよ。そんなの負け犬の遠吠えだろ」
はー、噛めば噛むほど味わい深い。
「ネムルバカ」の「自称ア~チストってのは常々、やってて楽しいと思える程度」とか、入巣柚実が「先輩は楽しそうだったのに…起きたら、すごい悲しい顔してる」という台詞が、さらに味わい深くなりますね。
鯨井ルカは売れっ子になって、壁を越え達成。
しかし、最後に意味のないテロをしでかして逃走。思い通りに行っても楽しくなかったんですか。思い通りにいかなけど楽しかったから良いという親父の話ですよお。
本当に親父は、どうでもいい話に見えて良い話をする。
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