読んだと後に目頭に流れるのは涙である。
胸にポッカリ穴が空くのは寂しさである。胸に熱いものが込み上げてくるのは胸熱である。藤田和日郎先生の黒博物館シリーズ(第三弾あるのか知らんが)の2作目。『黒博物館ドーストアンドレディ』は超傑作である(断言)。
ロンドン警視庁の犯罪資料館「黒博物館」に展示された“かち合い弾”と呼ばれる謎の銃弾。ある日、それを見せてほしいという老人が訪れたとき、黒衣の学芸員は知ることになる。超有名な「お嬢様」と、「もうひとり」が歴史的大事件の裏で繰り広げた、不思議な冒険と戦いを…!藤田和日郎の19世紀英国伝奇アクション超待望の第2弾、ここに開幕!!
19世紀英国伝奇アクションを描く『黒博物館』は、実在の人物や出来事やアイテムを史実を混ぜながら、藤田先生が絶妙に調理する。
超傑作なり
今作『ゴーストアンドレディ』は、実在の伝説の看護師「フロレンス・ナイチンゲール」と英国の縁起の良い幽霊「灰色の服の男」を黒博物館に展示された「かち合い弾」で紡ぐ。
ナイチンゲール(以下フロー)と灰色の服の男・グレイのラブロマンスなり。
自分を取り殺してくれとお願いするフローに、グレイは絶望した時に殺すと約束。奇妙な2人のコンビが誕生した。そんな2人がクリミア戦争で奮闘する物語。
すげー漫画だわこれ。傑作です。名作です。藤田先生の構成力の上手さに舌を巻くね。見事の一言のストーリーとキャラの立ちっぷり。実在したナイチンゲールと、ドルリー・レーン劇場の縁起の良い幽霊という元ネタはあるものの、ほぼ完全オリジナルキャラのグレイ。素晴らしいコンビだった。
最初は精神的に弱かったフローも、グレイのおかげで「絶望」など抱くことなく、真っ直ぐにやるべき事を賢明にやる。その様子を見てグレイも変わっていく。もうね、2人の関係がね。いいんだ。というか、どう見ても2人の関係は『うしおととら』なんだよな。
「私を取り殺して下さい」とお願いするフロー。
グレイは最初は取り合わなかったけど、フローの秘めたる強い意思や環境に興味を持ち、生きる希望を失い「絶望」したら殺してやるってフローと約束する。でも、グレイのおかげでフローは絶望しない。真っ直ぐ進む。
絶望的状況でも立ち向かう。で、グレイは早く絶望しろよーって言いながらなんのかんので助けたり戦ったり…って、どう見てもうしとらの2人と同じ関係やん!早く食わせろと同じやん!
とらと同じように、最初は本気で絶望したら殺そうとしてたんだけど、途中から口だけ。絶望しろよーって言いながら、どう見ても殺す気なんてない。むしろ「絶望しろ」って台詞には信頼のような絆があったね。これ大人版『うしおととら』ですよ!タイトルも『ゴーストアンドレディ』だしね。
つまり、うしおととらと同じように、フローとグレイも最高のコンビなり。うしおが可愛い女の子でとらが人間の幽霊だったら…って感じの関係です。
まあ、大人版『うしおととら』と言いつつ、描かれるコードは王道少年漫画なんだけど。むしろそこがいい!自ら看護の道に進み、絶望せずに困難を乗り越えていく様が凄い。
かっくいー!
思わずぶるっと震えるぐらいのもの。クリミア戦争から盛り上がりが半端じゃない。看護する者という視点での戦争の描き方も面白い。負傷兵が次々と野戦病院に運ばれ、陸軍の面子やお決まりに対して立ち向かうフローの戦いのはカタルシスを得る。
凛々しくキリッと決めるフローはいちいち私の心の琴線に触れる。熱いです。ドキドキします。このドキドキ感が何度でも俺を少年に戻してくれる。
何よりもだ。
フローとグレイは段々と惹かれあうし、フローの可愛さ&乙女レベルがどんどん跳ね上がっていく。極上のラブロマンスやで。
恋する乙女のフローの可愛さよ。途中から2人のやり取りは頬を緩ませてニヤニヤするのみ。ドキドキします。このドキドキ感が何度でも俺を少年に戻してくれる。
めったくそ可愛いな!
ああ、もうめちゃくちゃいいな!この2人!うしとらが男女で互いが恋愛的に好きになったら…という感じなんですけど、それが超いい。
最高だった。途中から止められない止まらないのかっぱえびせん状態でページをがんがん捲る。だけど、読み終わるのがちょっと寂しくなる。衝撃と感動の連続です。
また、『エンバーミング』(和月伸宏)の最終回で黒博物館が登場したのをご存じでしょうか。おそらく作者同士が仲良く(?)て同じ英国の時代なのでって事なのでしょうが。
エンバーミングで黒博物館が
んで、そのお返しとばかりにジュビロ先生はエンバーミングの最終回のシーンを作中で描くっていうコラボが面白かったです。
黒博物館でエンバーミングが
凄いコラボだ。
そして、やっぱ間違いなくこれ傑作です(断言)。
ラスト2話の盛り上がりっぷりと結末には鳥肌が立つね。
今までのストーリーがそこへ向かうようにテンションMAXにし、今までの伏線が綺麗に回収される様は芸術と言っていいレベル。あれが伏線だったのかと驚く伏線のすくい取り方も見事。読み終わった後に、胸に熱いモノと涙が込み上げてくる。
緻密に練り込められた超絶技巧の漫画である。2人の過去・信念・愛にグッとくる。魂の救済と贖罪の物語!超お勧め!
(ここから核心的なネタバレします)
スポットライト
最後は凄かった。美しかった。キモはスポットライトなり。
ラストは『うしおととら』のもう腹いっぱいを彷彿させる感動的な別れなんだけどさ。それが凄く良かったんだけどさ。でも、最期は2人一緒になって欲しかったって思うんだよな。切なすぎるだろ!
お別れかよ
えー!そりゃないよー!
解釈としてはフローは天国へ行けるけど、グレイは地獄へ行くので一緒には行けないって事でしょうか。切なすぎるだろ。
もし、かち合い弾にならずフローがジョン・ホールを撃ち殺していたら一緒に地獄へ行けたかもしれないのか。でも、グレイはそれを止めた。「お前は汚れるんじゃねぇ」って。絶望したのに殺さず、生かして、地獄行きすら止めた。泣ける…。
ここで括目すべきはグレイは影にいること。
結局、グレイは観客でいる事を選んだのか。
最初にフローに会った時に、『タイタス・アンドロニカス』『ハムレット』『トロイラスとクレシダ』『ロミオとジュリエット』のように、グレイが長い間観てきた悲劇を「観ているだけだったオレが今こそ役を与えられた役者になれる」と手を叩いて小躍りしてたのに。
そう、グレイは舞台に上がりたかったのだ。舞台はキラキラと光り輝いていた。だって暗闇からスポットライトを見るだけだったし。
スポットライトを見てるだけ
影から光を見つめるグレイである。
観客席から見た舞台は眩しいぐらいに光り輝いていた。
スポットライトは舞台で役者を照らす。
グレイは憧れていた。薄暗い暗闇のような影から光を見つめて、自分にも光が当たる役者に!グレイにはスポットライトが当たらない。憧れる、見てるだけ。グレイ自信を照らすスポットライトは無い。
対してフローは役者だった。
もう影の中で光り輝いていた。スポットライトが当たりまくる。
スポットライトが当たりまくり
何度もスポットライトが当たるフローは、まさに舞台に上がる役者である。「オレたち幽霊はただ観てるだけだ」という台詞の通り、グレイ自身に対しては舞台を照らすスポットライトは決して当たらない。スポットライトの光が照らしていたのはフローにだけ。
そんなメタファーを吹雪で凍えるように例えたりしつつ、フローの暖かい光、スポットライトは天に召す時にもフローを照らす。グレイは一緒に行けないと、やっぱり陰にいる。
だ・け・ど!
だけど!
最後のキスシーン。
スポットライトはフローだけでなく、グレイも照らしてた。
一緒にいたからスポットライトの光が当たったんでなく、グレイ自身を照らしてた。フローが消えた後に「くそ、あったけえなァ」と感動的なシーン。フローが消えてもスポットライトは当たり続けていた。
薄暗い観客席で座って観てるだけだったグレイが、スポットライトの当たる役者になっていたたと思う。
故に、最終回『サムシング・フォー』の構成は美しく見事。
最終回は時系列がバラバラで、黒博物館で話しいる→フローが天に召すのを見送りに行く→時系列戻ってフローに会いに行く前の黒博物館…という、一見すると「?」な構成。
だけど、最期の最期にグレイが役者だったと述べてスポットライトが当たってたのは美しいがために美しい舞台の締めだった。
締め
「我ら役者は影法師、皆様がたのお目がもし、お気に召さずばただ夢を見たと思ってお許しを。」とシェイクスピアの『夏の夜の夢』の妖精パックの口上をグレイから贈られる。スポットライトがグレイ自身に当たって消えた。ああ、グレイは最初から役者だったのか、と。
実際、作中でフローはグレイを「とても、あたたかだった…」と、グレイがフローの光に例えたのと同じような事を言っていたし。美しいフィナーレ。
切なくも美しい物語。もうね、普通に号泣ですよ号泣。涙腺弱い事は自覚してるんだけど、ラストは目から今年の年間降水量に匹敵するぐらいの雨が降ったね。我らはお手を取ってお礼を述べるのみ。パチパチパチ。
無料で読めます
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